インフレの高伸によって世界中で長期金利が上昇しています。中でも、昨年夏からの上昇率は日本がダントツです。

長期金利は、自然利子率の代替指標である「潜在成長率」と「インフレ期待」の和としてイメージできますが、まだ抑制された水準にあります。それが何を意味するのか。金融政策に与える重要な示唆を整理します。


世界中で上昇する長期金利、中銀にのしかかる責任の重み(愛宕伸...の画像はこちら >>

世界中で長期金利が上昇しているって本当?一番上昇しているのは日本

 昨年から日本の長期金利がかなりのペースで上がっていることは、このレポートで何度も紹介していますが、海外でも長期金利が上がっているとよく耳にします。本当でしょうか。図表1で30カ国の長期金利を比較してみました。


<図表1 各国10年金利の推移>
世界中で上昇する長期金利、中銀にのしかかる責任の重み(愛宕伸康)
出所:ブルームバーグ、楽天証券経済研究所作成

 これを見ると、確かに2022年頃からほとんどの国の長期金利が上昇していることが分かります。新型コロナ禍からの景気回復やインフレにつれて上昇したのだろうということが容易に想像できますが、その中にあって日本の長期金利の上がり方が少し違って見えます。


 多くの国が2022年から2023年にかけて急速に上昇したのに対し、異次元緩和を続けていた日本ではその時期に長期金利はほとんど上昇せず、2024年3月に異次元緩和が終了してから、急速に他国の長期金利にキャッチアップするかたちで上昇しています。


 特に、与党が惨敗した昨年7月の参院選以降の上昇ペースが速く、その間の10年金利の変動幅を各国と比較すると、トルコ、韓国に続く3番目の上がり幅となっています(図表2)。


<図表2 各国10年金利の2025年第3四半期以降の変動幅>
世界中で上昇する長期金利、中銀にのしかかる責任の重み(愛宕伸康)
出所:ブルームバーグ、楽天証券経済研究所作成

 ただ、ここで注意が必要なのは、そもそも金利水準が高い国では変動幅が大きく見えるのが当然だということです。というわけで、上昇幅ではなく、上昇率を比較してみました(図表3)。これを見ると、案の定、トルコが大きく順位を落とし、日本がダントツで長期金利の上昇した国となっています。


<図表3 各国10年金利の2025年第3四半期以降の変動率>
世界中で上昇する長期金利、中銀にのしかかる責任の重み(愛宕伸康)
出所:ブルームバーグ、楽天証券経済研究所作成

なぜ世界中の長期金利が上昇しているのか~インフレ率と10年金利~

 2022年以降、各国の長期金利が大幅に上昇した背景には、前述した通り、新型コロナ禍からの景気回復によって安全資産である国債から株などのリスク資産へマネーが移動したことや、インフレによる購買力低下を補償するために高い名目利回りが要求されたこと(フィッシャー効果)があります。


 図表4は、図表1で紹介した30カ国の消費者物価上昇率(総合、以下CPI)をみたものですが、各国のCPIが2022年に大きく伸びを拡大していることが確認できます。


<図表4 各国の消費者物価(総合)上昇率>
世界中で上昇する長期金利、中銀にのしかかる責任の重み(愛宕伸康)
出所:ブルームバーグ、楽天証券経済研究所作成

 少し脱線しますが、こうやって改めて各国のCPIを比較すると、いかに日本のインフレの進み方が遅く、かつ緩やかであるかが分かります。2023年にかけて日本銀行が利上げをしていなくてこれですから、他国民からすると相当羨ましい国に映るのではないでしょうか。


 ともかく、インフレ率が高いとそれだけ高い名目利回りが要求されるというフィッシャー効果からすると、CPI上昇率の高い国ほど長期金利も高いということになりますが、果たしてどうでしょうか。散布図を描いてみました(図表5)。


<図表5 インフレ率と10年金利>
世界中で上昇する長期金利、中銀にのしかかる責任の重み(愛宕伸康)
注:図表2、3で採用した41カ国。出所:ブルームバーグ、楽天証券経済研究所作成

 10年金利30.8%、CPI上昇率32.1%のトルコでやや、いやかなり見難くなっていますが、掲載した近似線を見ると、一応、正の相関関係はあります。すなわち、CPI上昇率の高い国ほど長期金利も高くなっています。


日本の10年金利は他国と比べ割高?それよりもっと重要なポイントが

 もちろん、長期金利の水準を決めるのはインフレ率だけではありません。筆者はよく自然利子率(均衡実質金利∶景気に緩和的でも引き締め的でもない実質金利)の代替指標として、潜在成長率を参照することがあります。


 潜在成長率が高い国ほど資金需要が強く、実質金利が高くなります。したがって、潜在成長率とCPI上昇率(インフレ期待の代理変数)を合わせた、いわば「均衡名目成長率(巡航速度での名目金利水準)」が長期金利のイメージ作りに役立つことになります。


 図表6が各国の10年金利と「潜在成長率+CPI上昇率」の散布図ですが、これを見ると、一応、両者の間には正の相関があるように見えます。

しかも、日本の立ち位置(消費者物価上昇率2.7%、10年金利2.7%)はちょうどその近似線上にあることから、その意味で他国と比べ特に金利水準が割高というわけではありません。


<図表6 10年金利と「潜在成長率+CPI上昇率」>
世界中で上昇する長期金利、中銀にのしかかる責任の重み(愛宕伸康)
注:潜在成長率はOECDによる推計値(2025年)を使用(データがない場合は2025年実質GDP成長率を使用)。なお、消費者物価は2026年4-6月期の前年比。日本は潜在成長率0.5%、消費者物価は日本銀行の特殊要因除くベース6月の値(前年比2.7%)、10年金利は2.7%とした。出所:OECD、ブルームバーグ、楽天証券経済研究所作成

 実は、図表6にはもっと重要な論点が隠れています。それは、近似線が45度線から下方に乖離しているという事実と、その意味合いです。長期金利が「潜在成長率+CPI上昇率」でイメージできるのであれば、近似線は45度線とほぼ一致するはずです。それがなぜ一致していないのか。


 一つの仮説は、図表6で採用した2026年4-6月期のCPI上昇率が市場のインフレ期待より高いというものです。言い方を変えると、市場のインフレ期待が2026年4-6月期のCPI上昇率よりも低い水準にアンカー(固定化)されているからこそ、10年金利が45度線より低い位置にあると考えられます。


 例えば、近似線上にある日本や米国のインフレ期待は、2026年4-6月期のCPI上昇率(日本は2.7%、米国は3.5%)より低く、逆に言えば、インフレ期待が2026年4-6月期のCPI上昇率のような高い水準まで上振れた場合、10年金利は45度線と接する点(すなわち、日本3.2%、米国5.7%)まで垂直に上振れることになります。


 つまり、図表6は、インフレ期待を低水準にアンカーさせる中央銀行の金融政策運営がいかに重要であるかを明確に示していると見ることができます。日銀やFRBの適時適切な政策運営が期待されます。


(愛宕 伸康)

編集部おすすめ