今週は、世界情勢や市場動向にとって大きな重要性と影響力を持つ米中関係を扱いたいと思います。5月のトランプ米大統領訪中を経て米中関係は、相対的な安定期に入ったように見えますが実際はどうなのか。

AIを巡る覇権争い、9月で調整中の習近平訪米に向けて米中関係はどう推移するのかといった争点について解説します。


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米中関係の現在地:習近平氏の訪米が節目になるか?AI覇権争いにも注目
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米中関係の重要性と影響力。そのとき日本は?

 先週のレポートでは「台湾有事の本質」という大きなテーマを扱いましたが、その「姉妹編」というわけではないですが、今週は米中関係というこれまた大きなテーマを解説したいと思います。


 米中関係の重要性と影響力はどれだけ強調してもしすぎることはないでしょう。


 経済的に見れば、米中は世界第1、第2の大国であり、世界経済への影響は巨大です。


 先端技術という分野で見れば、昨今加熱する人工知能(AI)を巡る競争を中心に、半導体、ドローン、量子コンピュータ、電気自動車(EV)関連といった分野に広がっています。米中の技術を巡る覇権争いが株式市場に与える影響も日増しに強くなっていると感じます。


 軍事的に見ても、米中間の軍事バランスは世界平和の根底に影響を与えるほどの威力を持っています。


 地政学的には、ロシア・ウクライナ戦争、イラン情勢、そして台湾海峡、東シナ海、南シナ海といった世界各地における情勢において、「米中次第」、すなわち、トランプ大統領と習近平が何を考え、どう動くかで情勢が左右されるという要素が深まっています。


 そして、政治的に見ると、米国は(トランプ政権下で揺らいでいるように見えるものの)民主主義と資本主義を体現する国であり、一方の中国はソ連解体後も、社会主義体制下で「孤軍奮闘」している。どちらの体制が、経済の成長、技術革新、社会の安定、国民の幸福といった観点から制度的優位性を持つか、という「世紀の競争」でもあります。


 このように、米中関係というのは多面的であり異次元であり、日本・日本人を取り巻く経済的、社会的、地政学的、安全保障的環境にとっても、ますます軽視できないものになっているといえます。

日本は米中2大国の「はざま」で生きていかざるを得ないという前提条件を踏まえればなおさらです。


 私自身、日本はますます米中の動向を注視しながら、(1)プリンシプル(原則)(2)バランス感覚(距離)(3)価値観(理念)の三つを重視しつつ、自らの生存と成長、そして幸福を追求していく必要があると考えています。


トランプ大統領訪中を受けて「相対的安定期」に入っている米中関係?

 本連載でも取り上げてきましたが、2026年上半期の世界情勢を捉える上で、最大イベントの一つだったのが5月13~15日の、トランプ大統領による、国賓待遇による中国訪問だったとレビューしています。


 そして、私が世界情勢や市場動向に与える影響力の深さという観点から、時間軸として捉えているのが、「トランプ訪中」から9月下旬で調整されている「習近平訪米」までの約4カ月。


 この間に、米中間で何が起こり、それらが両国関係にどういう影響を与え、ひいては世界情勢・経済にどういうインパクトと示唆をもたらすか、という視点で、この期間の両国関係を観察しているというのが現状です。


「トランプ訪中」と「習近平訪米」の「つなぎ」の事象として、米中間の閣僚級によるハイレベル協議は続いています。


 外交トップ間の往来としては、王毅(ワン・イー)外相とルビオ米国務長官が6月30日に電話で、7月22日に対面で、1カ月の間に2度会談した事実は大きいといえます。


 直近の対面での会談において、ルビオ国務長官は「(中国による台湾周辺への海警船の派遣)問題は、われわれのあらゆる会談で必ず取り上げられる。われわれは当然、こうした行動に反対している。こうした行動は、戦略的安定に関して中国側と構築しようとしている枠組みの精神に反する」


「より重要なのは、米国は国際水路が他国の支配下にあるという考えを決して受け入れないということ」などと中国側をけん制しました。


 一方、米中関係については、「米中間の意見の相違は極めて慎重に管理する必要がある」「意見の相違があるとしても、中国との対話を継続することが重要」とした上で、5月のトランプ大統領訪中で合意した投資委員会・貿易委員会(注:約300億ドル相当の品目を対象とする関税引き下げの可能性を検討)を巡る進展が、9月の首脳会談で実現できる「具体的な成果の一つになる可能性がある」と指摘しています。


 一方の王毅外相は、「今年は米中関係にとってのビッグイヤーである」「米中間の戦略的安定によって世界の平和と安寧を促進し、米中間の建設的な相互作用によって国際協力に重要な原動力をもたらすべきだ」と米中関係の重要性と方向性を指摘した一方、「中国の核心的利益を尊重し、『一つの中国』原則を厳守するとともに、対立や意見の相違を適切に管理し、中国側の正当な懸念を解決することで、米中関係にとっての『機会の年』を現実のものとすべきだ」と米国側に要望もつけました。


 米中間の発表にはギャップも見られます。

利害関係に食い違いが生じているということです。


 例えば、中国側のみ、会談を「実務的かつ前向きで、建設性に富む」と評価、台湾問題への直接的な言及は米国側のみ、中国側は「一つの中国原則」に触れたが、発表において台湾への明示的な言及はない、といった違いが見られます。


 トランプ大統領訪中時の米中首脳会談後に共同声明が発表されなかったことからも分かる通り、トランプ大統領・習近平体制下における米中関係は、それぞれの国内事情が考慮されています。


「自分たちが言いたいこと」を「一方的」に主張しつつ、無理に一致や合意を見いだそうとせず、それでも全体的に関係を管理すべく、両首脳が互いを批判せず、「友好的」なムードを演出しているように見受けられます。


 7月30日には、何立峰(ホー・リーフォン)副首相とベッセント米財務長官、グリア米通商代表部代表がオンライン会談を行い、5月の米中首脳会談の合意履行と経済・貿易関係の安定化を議論しました。


 中国側の発表によれば、双方は「率直で、踏み込んだ、建設的な」意見交換を行い、経済・貿易協議メカニズムを活用して、意思疎通の強化、相互信頼の向上、協力の拡大を進めることで一致したとのことです。


 一方、中国側は協議の中で、最近の米国による対中の貿易・経済制限措置について「重大な懸念」を表明。米国は7月下旬、強制労働禁止措置の執行が不十分であるとして、日本を含む60の貿易相手・地域からの輸入品に対し、新たに10%および12.5%の追加関税を課すと発表し、中国には12.5%の税率を適用。


 7月29日には、トランプ政権として、中国製の新型ロボットおよび電力インバーターを対象とする輸入禁止措置を発表しており、中国も報復措置を講じる可能性を警告しています。


 ベッセント氏は7月31日、Xの投稿にて、中国がレアアースや米国産農産物を巡る約束を完全に履行することを米国は期待していると強調し、また「貿易・投資委員会」を通じてより均衡的で公正な米中経済関係に向けて具体的な進展を図る方針を示しました。


 米中間の摩擦は関税やレアアースにとどまらず、イランへの中国製兵器供給の可能性、中国製AIモデル、知的財産権侵害の疑い、ロボット・インバーター規制にも広がっています。


 私の見方では、米国と中国の関係は確かに一時的に「相対的安定期」に入っているように見受けられますが、それでも戦略的国家間競争というのが根底にあります。

よって、上記で取り上げたような摩擦や制裁措置の科し合いなどは「日常茶飯事」といえます。あまり一つ一つの事象に一喜一憂すべきではないというのも一つの真理を突いているでしょう。


 これらの「つなぎ」としての動向が、9月の習近平訪米にどうつながっていくのか。両国当局には引き続き微妙なさじ加減とかじ取りが求められるにちがいありません。


習近平訪米時にも注目される「AI覇権」を巡る駆け引きと攻防

 先々週のレポート「 習近平氏が『主導権を握り、米国に勝つ』と示唆した中国のAI戦略とは? 」にて、中国共産党指導部が狙うAI覇権について、その現在地を次のように総括しました。


 中国は習近平氏という最高指導者の明確な政治的意志の下、AIという分野で世界トップに躍り出るべく、企業や技術、サービスや商品だけでなく、秩序形成やルールメイキングというより深く、大きな分野で世界をリードしようとしている。


 AIを巡っては、米国側のアンソロピックやオープンAI、中国側のDeepSeek(ディープシーク)やムーンショット(月之暗面)といった新興企業だけでなく、その背後で制度やルールを決め、操る国家側の意志もこの新しい産業、技術、サービスの発展に色濃く影響していくことは間違いありません。


 AIにはそれだけの、ときに原子力をほうふつとさせるような「破壊力」があるということでしょう。


 実際、米中両国政府は互いの技術への警戒心を強めているように見受けられます。例えば、中国政府は、米アンソロピックのAIモデル「Claude Mythos(クロード・ミュトス)」などが、中国に対して、サイバーを攻撃含む「攻撃用兵器」として使用されるシナリオを強く警戒しています。


 特に、米AI企業が顧客データを収集し、米政府や軍と共有する能力を持っていることが、中国側の国家安全保障上の不安を増大させている。そしていうまでもなく、米国側も同様の視点から、中国側が官民一体で米国の軍事や国家安全保障を脅かす事態を懸念しているという構造です。


 国内で足並みをそろえるという観点からすると、米国側に不安要素も見て取れます。トランプ大統領は、中国との競争で米企業を不利にしないよう配慮しつつ、AIに追加規制を課すという難しいバランスを模索している。


 一方、米政府は軍事利用の安全策を巡りアンソロピック社と対立しており、政府による同社技術の使用禁止措置を巡って法廷闘争にまで発展しているというのが現状です。中国側としては米国側が国内的に「もたついている」間に、米国側との実力差を縮めたいと狙っていることでしょう。


 中国政府は現時点で、アンソロピック社など米AI企業に直ちに措置を講じる予定はないものの、米国が中国のAI企業に制裁などを発動した場合に備え、米AI企業への制裁や中国の規制対象企業リストへの追加といった潜在的な対抗措置を検討しているのは間違いありません。


 5月のトランプ大統領訪中時には、米中間で「AI対話」のプラットフォームを構築する意志が双方から示されましたが、その後実質的な進展はありません。


 9月の習近平訪米、および首脳会談に向けて、AIという新たな戦略的分野が両国間でどう扱われるのか。首脳会談は、米中AI覇権争いを激化させるのか、あるいは「共同発展」のための何らかの枠組みができるのか。引き続き、企業と政府、両方の動向を注視していく必要があると思います。


(加藤 嘉一)

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