7月5日、笠間市民球場での夏季茨城大会1回戦。創部1年目でベンチ入りした全15選手が1年生で臨んだ四谷学院は、7対0(8回コールド)で初陣を飾った。
対戦相手が一昨年の秋の関東大会でベスト8に食い込んだつくば秀英だったこともあり、四谷学院の勝利はセンセーショナルに伝えられた。
【予備校発だからできる最強の文武両道】
四谷学院には中学時代に全国大会出場経験のある選手が多く、高校1年生としてはハイレベルなのは確かだ。ただし、つくば秀英も3年前に部内で不祥事があり、学校側の方針転換もあって、今は強豪とは言えないレベルになっていることも付記しておきたい。
四谷学院は「なんで、私が東大に!?」のキャッチコピーで知られる、大手予備校が新設した通信制高校である。野球部1期生の15人は全員寮に入り、設備の整った環境で高校生活を送っている。
一般的に通信制高校の野球部と言えば、「野球ばかりしている」というイメージが強いかもしれない。だが、野球部の本村幸雄監督は「ウチは文武両道を売りにしています」と明確に否定する。
「学校として勉強に力を入れていますし、生徒たちは午前中から頑張っています。野球部の練習は、午後の3時間です」
これまで予備校として確立してきた学習プログラムを通信制高校にも活用している。その代表例が「55段階個別指導」だ。受験に必要なテクニックを段階ごとに習得していくシステムで、中学1年レベルから東大合格レベルまで小刻みに級分けされている。
野球部の選手たちは一律に同じ授業を受けるのではなく、個別のレベルに応じた教材に取り組む。遊撃手の山本一心は日頃の学習状況について、こう明かす。
「みんな同じ教室で勉強しますけど、やっていることは人それぞれ違います。僕の場合は、数学は高校の真ん中くらいのレベルなんですけど、英語は苦手なので中学レベルからやり直しています。わからないところは先生に解説してもらっています」
とくに学業優秀なのは、エース右腕の松本颯志と、4番打者の吉田蒼太だという。ともに難関大学の合格を目指して、勉強と野球に打ち込んでいる。
個別指導の仕組みがあると、いわゆる「落ちこぼれ」の生徒が出ないのではないか。本村監督に尋ねると、「そうなんですよ」と力強い同意が返ってきた。
「個人に合わせているので、脱落者が出ません。難関校を狙っている子も、高校レベルの基礎的な学力を学びたい子も、自分のレベルに合わせて等しく勉強できる。授業の内容がわからず、ウトウト......なんてこともない。これも通信制の強みなのかなと感じます。私もこの学校に来て初めて55段階個別指導のシステムを知りましたが、すごいなと思っています」
【異色の経歴を持つ本村監督の教育論】
本村監督の経歴もまた、異彩を放っている。習志野高、日本体育大を経て、光明学園相模原(神奈川)で監督を17年務めた。その後、ヘッドハンティングされる形で日本ハムの教育ディレクターに就任。
本村監督が四谷学院の監督に就任した理由は、同校の理事を務める原田隆史氏との縁がきっかけだった。原田氏は公立中学の元教員で、独自の教育手法「原田メソッド」を確立。その手法は教員だけでなく、企業の人材育成にも活用されてきた。本村監督も日本ハムの選手教育に原田メソッドを用いてきた。
大谷もまた、原田メソッドとの縁がある。花巻東高時代の大谷が、自身の目標を9マス×9マスのシートにびっしりと書いた、いわゆる「マンダラチャート」。大谷が使った目標設定シートは、原田メソッドのツールである
最近になって大谷が高校時代に書いた「人生設計シート」について、「全部忘れました」「高校生の時に書いたことなので、埋めようと思って書いているのもあります」と発言したことが話題になった。本村監督は大谷のコメントを把握していなかったが、こんな見解を示した。
「人によって思いつきで書くか、深く考えて書くかの違いは出るでしょうが、(マンダラチャートは)自分の頭の中を整理するための紙です。
四谷学院でも、原田メソッドの目標設定シートを導入している。入学時には、原田氏が選手たちに話をする機会もあったという。選手たちは明確なビジョンを持って、日々を過ごしている。
【四谷学院が認めた唯一無二の打撃】
それでは、四谷学院の野球部には、どんな選手が集まっているのだろうか。試合を見るなかで目を惹いたのは、2番・遊撃手の山本だった。身長170センチ、体重63キロと小柄ながら、遊撃守備は安定感がある。
さらに異色なのは、メジャーリーガーのような打撃スタイルだ。左打席に立った山本はグリップを左脇付近に置いて、バットヘッドをグルグル回して構える。豪快なスイングとフォロースルーで、小兵とは思えない打撃を見せるのだ。つくば秀英戦ではライトオーバーの二塁打を放つなど、2安打をマークした。
山本は「自分のバッティングスタイルを認めてくれたのは、四谷学院だけでした」と明かす。
岐阜県出身の山本は、中学時代は岐阜中濃ボーイズで活躍。5番・三塁手として全国大会にも出場している。
岐阜中濃ボーイズの蛭川由規監督が本村監督の大学時代の後輩だった縁から四谷学院の存在を知り、山本は「先輩のいない新しい学校で歴史をつくりたい」と入学した。
今後の野望を聞くと、山本は笑顔でこう答えた。
「高校卒業後はアメリカの大学に行って、向こうでプレーしたいです」
本村監督は山本について「体が大きくなれば、素材としてかなり楽しみです」と期待を口にする。
四谷学院は山本だけでなく、フィジカル的に大きな伸びしろを残した選手が多い。そこで存在感を発揮しそうなのが、トレーナーの内田幸一コーチだ。
内田コーチは帝京大の敏腕トレーナーとして名が知られ、青柳晃洋(ヤクルト)らを指導。青柳との縁から村上頌樹(阪神)のパーソナルトレーナーとして、飛躍に一役買っている。内田コーチは、選手たちを眺めながらこんな実感を語った。
「まだまだトレーニングの時間を割けていませんし、やっていることは基礎も基礎の段階。みんなこれから楽しみですよ」
今夏の茨城大会は内田コーチをベンチに入れるために、登録上は「内田監督/本村部長」の体制で臨んでいる。
初戦を勝利した四谷学院は7月10日に霞ヶ浦との2回戦を戦う。県内有数の強豪だけに厳しい戦いが予想されるが、1年生軍団にとっては貴重な経験になるだろう。
全国のさまざまな地域で、それぞれの事情を抱え、いろんな手法を持った高校が甲子園を目指している。その幅が広くなればなるほど、高校野球は面白くなる。
いずれ四谷学院が甲子園を視界にとらえる日はくるだろう。今夏に茨城で響き渡った産声は、活力に満ちていた。










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