静岡県伊東市の市民グループが、前市長の田久保眞紀氏の学歴詐称疑惑をめぐり、住民訴訟を提起するためのクラウドファンディングを行い、7月12日の終了時点で目標額の150万円を達成した。
同団体が提起するとしている住民訴訟は、田久保氏が学歴詐称疑惑により議会を解散したことに伴う市議選と、その後に再度の不信任決議がなされ失職したことに伴う出直し市長選にかかった費用約1億円について、田久保氏に対し損害賠償請求するよう、伊東市に求めるものである。

しかし、そもそも現行法制度上、選挙の費用を、議会を解散した元首長個人に請求することは可能なのか。元総務省自治行政局行政課長で、地方自治法の専門家である神奈川大学の幸田雅治名誉教授(弁護士)に聞いた。

法令上、議会解散に「理由」は一切不要

住民訴訟は、地方公共団体の財政の腐敗防止を図り、住民全体の利益を確保することを目的とした制度である(地方自治法242条の2参照)。
今回の伊東市のケースでは、市民グループは、住民訴訟において、市に対し、選挙費用を田久保前市長に請求するよう求めることになる。
幸田名誉教授は、現行法制度上、形式論からみても、実質論からみても、住民側が勝訴する可能性は「ほどんどない」と説明する。
まず、法律の規定のあり方という形式論から。
幸田名誉教授:「市議会議員選挙、市長選挙は、あくまでも客観的な法制度に則って行われるものである以上、選挙の費用が無駄ということは論理的にあり得ません。
また、法律上、議会による首長に対する不信任議決の要件は『議員数の3分の2以上の者の出席、その4分の3以上の同意』という数値的要件のみであり、理由は要求されていません。さらに、首長の議会解散についても、理由はいっさい要件とされていません。
つまり、いずれも、理由を問わず、議会と首長との政治的対立が生じさえすれば、そのことだけをもって行使できるということです。たとえ、政治的対立のきっかけが政策論争と関わりの薄い『首長の学歴詐称疑惑』のようなものであろうと、関係ありません。
強いていえば、理由の有無は、選挙を通じ、住民がその責任において判断することになります。そこに住民監査請求や住民訴訟の出る幕はありません」

対立が生じたら選挙で「直近の民意」を問うのが筋

次に、幸田名誉教授は、選挙が行われた理由の是非を住民訴訟で問うことが相当でない実質的な理由として、首長と議会の二元代表制の下、地方自治体の議員と首長の任期がいずれも4年に設定されていることを挙げる。

幸田名誉教授:「地方自治の制度では、首長と議会がいずれも住民から直接選挙で選ばれ、互いに独立する機関として抑制と均衡を図る『二元代表制』が採用されています。そして、首長も議員も任期はいずれも4年に設定されています。
この二元代表制度の下で、それぞれの4年の任期中に、両者間に政治的な対立が生じることは、当然に想定されています」
「議会による首長の不信任議決」とこれに対する「首長の議会解散権」はいずれも、両者の政治的対立を解消するための仕組みであり、最終的には選挙を通じて直近の民意を問うのが、二元代表制の趣旨であると説明する。
幸田名誉教授:「不信任議決をされた首長が議会を解散すれば、解散後の議員選挙の結果が、直近の民意を反映したものになります。
また、首長はあえて議会を解散せず自ら失職して『出直し選挙』に立候補することも認められています。その理由は、選挙を通じて直近の民意を明らかにすることができるからです。
今回のケースにおける政治的対立の是非は、本来、選挙の場で住民が民意として示すべき問題であり、住民訴訟を提起しても、理由なしとして棄却されるほかないと考えられます。
また、そうでなければ、住民訴訟が『気に入らない政治家を追い落とすための口実』として悪用されてしまう危険性があります」
このように、議会による長の不信任議決、これへの対抗手段としての首長による議会解散または失職しての出直し選挙は、二元代表制の下で対立を解消し、住民の意思を問うための正当な手続きと位置付けるほかはない。
そのため、選挙にかかった費用は「正当な費用」とするほかなく、違法または不当な支出に該当し得ない、というのが専門家の見解である。


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