せっかく入社してくれたのに、わずか数カ月~1年未満で退職してしまう…。「早期離職」は、多くの企業にとって頭の痛い問題です。
では、面接の段階で早期離職のリスクを見極めることは可能なのでしょうか。これまでに1万人以上の転職希望者と向き合ってきた株式会社クライス&カンパニーの丸山貴宏氏に、早期離職が起こる背景や、面接で確認したい質問例、人事・採用担当者が陥りがちな判断ミスなどを聞きました。
なぜ「すぐ辞める人」が増えているのか
――近年、早期離職の増加が多くの企業を悩ませています。丸山さんはその背景をどのように見ていますか。丸山氏:企業側の問題と転職希望者側の問題、両方があると思います。
まず企業側では、慢性的な採用難が続いています。人事・採用担当者は母集団形成のために必死に動いていますが、それでも採用できず、従来の採用要件を下げざるを得ないケースも増えているのではないでしょうか。結果的に求める人物像があいまいになり、ミスマッチが起きてしまうのです。
一方、転職希望者側の環境も大きく変わりました。転職サイトやスカウトサービスが進化し、現在では明確に転職を考えていない人にも、日常的に転職関連情報が届くようになっています。「自分の市場価値を知りましょう」といったメッセージに触れる機会も増えましたよね。その結果、企業理解や転職目的が十分に整理されないまま応募し、選考に臨むケースが増えていると感じます。
丸山氏:はい。かつては、自ら情報を集めて企業研究を行い、十分に考えたうえで応募する人が多かったと思います。しかし今では、「エージェントに勧められたから応募しました」と話す人も珍しくありません。中には、その企業の公式サイトを見ずに面接へ来る人もいます。
こうした状況で、採用難に陥っている企業が転職希望者を迎え入れてしまうと、企業理解や自己理解が十分でないまま転職することになります。その結果、入社後に「思っていた仕事と違った」「はたらく環境が想像と違った」と感じ、早期離職につながってしまうのです。
早期離職しやすい人に共通する「自分軸」に偏った関心
――丸山さんから見て、早期離職しやすい人にはどのような特徴がありますか。丸山氏:私は、自分への関心やエネルギーが強すぎる人には注意が必要だと考えています。
もちろん、転職は自分の人生をより良くするための行動ですから、自分軸を持つこと自体は悪いことではありません。しかし仕事は、本来「自分が世の中にどう貢献するか」を考える活動でもあります。ところが近年は、自分の成長や市場価値、待遇など、自分自身への関心ばかりが強くなっている人も少なくありません。
――具体的には、どのような傾向があるのでしょうか?丸山氏:たとえば面接で、「◯◯の資格取得のために勉強したいのですが、補助制度はありますか?」「異業種を経験して●●のスキルを身につけたいのですが、副業はできますか?」といった質問ばかりをする転職希望者は、関心が自分にばかり向いている可能性があります。
丸山氏:転職希望者が仕事を通じて成長したいと考えているのは事実でしょうし、その意欲が高いこと自体はポジティブにとらえるべきです。
一方で私は、その転職希望者の「関心の向き先」を見ることがとても大切だと考えています。自分軸の質問だけでなく、「一緒にはたらくのはどんな人たちですか?」「職場ではどのような価値観が大切にされていますか?」といった質問をする人は、周囲にも関心が向いていると言えます。こうした人は自分がいかに組織になじめるかを気にしており、入社後も定着してくれる可能性が高いでしょう。
しかし、組織や周囲の人に関心が薄く、関心が自身の成長や待遇に偏っている場合、自身の目標をある程度達成した時点で辞めてしまうかもしれません。
「独立志向が強い人」はわかりやすい例ですね。もちろん、それ自体は悪いことではありません。当社でも独立志向の人を採用することはあります。ただ、その場合は「1~3年くらいで当社を卒業していくかもしれない」という前提で、それでも採用したいくらい魅力的なスキルや経験を持っているかを含めて判断しています。
面接で早期離職リスクを見極めるための質問
――早期離職リスクを見極めるうえで、有効な質問はありますか。丸山氏:まず有効なのは、「当社で何を手に入れたいですか」「当社にどんなことを期待していますか」という質問です。この質問をすると、その人の関心がどこに向いているのかが見えてくるからです。
この質問に対して「マネジメント経験を積みたい」「自身の市場価値を高めたい」「新しいスキルを身につけたい」といった回答があること自体は問題ありません。ただし、その話だけで終わってしまう場合は注意が必要です。
――自分軸だけの回答しか得られない場合は、早期離職のリスクがあるかもしれないということですね。丸山氏:はい。一方で、「こうした経験を積むことで会社に貢献したい」「御社の課題解決に役立ちたい」といった視点が含まれている人は、組織や人への関心も高い可能性があります。
丸山氏:前述の通り、転職希望者の中には、ほとんど準備をせずに面接へ来る人もいます。自社への理解が浅いまま選考プロセスが進み入社した場合、早期離職につながるリスクが高まる可能性があります。
そうした事態を防ぐには、「なぜ当社を受けたのですか?」「当社の公式サイトをご覧になりましたか?」といった基本的な質問が有効です。「公式サイトを見ました」と回答してくれた場合は、「どんな点が印象に残りましたか?」と掘り下げて聞いていけるといいですね。
応募理由がどの会社にも当てはまる内容だったり、公式サイトの内容をほとんど説明できなかったりする場合は、企業への関心よりも条件面を重視して応募している可能性があります。
もちろん、企業研究の量だけですべてが決まるわけではありません。
この他にも、「過去の退職理由」や「短期間に転職を繰り返している理由」を深掘りするなど、早期離職のリスクを探るためにさまざまな角度から質問することをおすすめします。
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転職希望者と「盛り上がりすぎない」ことも重要
――丸山さん自身が面接で必ず聞くようにしていることはありますか?丸山氏:私自身はよく「私は◎◎さんに当社で長く活躍してほしいと思っていますが、長くはたらいていただける気はありますか?」と聞いていますね。
実にストレートな質問です。正直、この質問だけで見極められるとは思っていません。ただ、この言葉を伝えることで転職希望者の意識が変わることがあるんです。
少なくとも転職希望者には「この企業は自分に長くはたらいてほしいと本気で思っているんだ」と伝わるでしょう。
丸山氏:あります。典型例は、転職希望者の一部分の好印象に引っ張られて全体評価に影響してしまうことでしょう。心理学では「ハロー効果」と呼ばれるもので、転職希望者を実際の能力以上に高く評価してしまう認知バイアスが引き起こされることがあります。
特に注意すべきなのは、転職希望者と一緒に盛り上がりすぎないことですね。共通の知人がいたり、出身地が同じだったり、趣味が一致したりすると、人は相手に好意を持ちやすくなります。しかし、それと早期離職リスクはまったく別の話です。
面接官が転職希望者に好意を持ち、共感すること自体は悪いことではありません。その好意や共感に引きずられることなく、評価そのものは冷静かつ客観的に行うことが大切なのです。
採用が難しい時代だからこそ、「印象が良いから」ではなく、「本当に活躍し、定着してくれそうだから」という視点で転職希望者を見極めることが大切です。
【関連資料】
【取材後記】
今回の取材で印象的だったのは、丸山さんが一貫して「関心の向き先」の重要性を語っていたことです。面接というと、ついスキルや経験の語り方、受け答えのうまさに目が向きがちですが、実際には「誰とはたらきたいのか」「どのように貢献したいのか」といった視点の有無が、定着や活躍に大きく影響するのかもしれません。転職希望者を見極めるだけでなく、企業側も真剣に向き合う。その積み重ねが、採用後のミスマッチを減らす第一歩になると感じた取材でした。
企画・編集/海野奈央(doda人事ジャーナル編集部)、岩田悠里(プレスラボ)、取材・文/多田慎介、撮影/塩川雄也

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