京都府の最北端にある京丹後市。そこに“山の香りを閉じ込めた”酒を造る蒸留所があります。
世界に認められるほどの酒造りに、山奥の蒸留所で1人向き合う蒸留家の真山(しんざん)さん(25)。その1杯に込める思いとは?
山に自生する植物を用いた「ジン」造りに励む25歳
今年3月。まだ雪の残る山の中に、愛犬とともに進む男性の姿がありました。男性の目当ては、山に自生する植物です。
蒸留家の真山さん(25)。山の恵みを使った酒を造っています。
(真山さん)「フレッシュ感が強いので、良くも悪くも。風味で強く出すためには当日にとるのが大事ですね」
同じ山の中にある蒸留所に持ち帰り、丁寧に加工します。アルコールと一緒に、熱を加えながらゆっくりと香りや味わいを移していきます。
作っているのは「ジン」。松やにのような香りのジュニパーベリーという木の実をベースに、ハーブやフルーツなどを加えて造る蒸留酒です。
蒸留開始からわずか一年 世界的なコンテストで「最優秀賞」に選出
真山さんが使うのは、「クマザサ」や「クロモジ」など、京丹後産を中心に厳選された14種の素材。こうした独自のレシピで小規模に造られるジンは「クラフトジン」と呼ばれ、個性豊かな味わいで世界的に人気を集めています。
森にいるような爽やかな香りのジントニック
真山さんのジンをシンプルに味わうには、トニックウォーターで割ったジントニック。まるで森にいるような爽やかな香りが特長です。
「今まで飲んだなかで一番のジントニックです」
「不思議な味がするなと思って、何だろうこれって言って、もう1回また飲みたくなるような、そんな感じの味がします」
去年には、蒸留開始からわずか1年で世界最高峰のひとつとされる蒸留酒コンテスト「San Francisco World Spirits Competition2025」のジン部門で最優秀賞に選ばれました。
コロナ禍で止まってしまった世界で向き合った“自分のやりたいこと”
京都市出身の真山さんがここでジンをつくることになったきっかけは、コロナ禍でした。
マスクで香り遮断⇒香りの大切さを認識
(真山さん)「(コロナ禍で)すべてが立ち止まるというか、何もできない時間があったのですが、そのときに自分自身と向き合って、『自分がやりたいことって何だろう』というのを真剣に考えた時に出てきたキーワードが『香り』と『自然』でした」
マスクで「香り」が遮断された日々を過ごすなかで、香りの大切さをあらためて認識。大学に通いながらお茶農家や線香店などで働き「香り」への関心を深めていきました。
そして2023年、観光施設などを運営する会社が、京丹後に新たな名産品をとジン造りを始めることに。蒸留所開設に合わせて入社しました。
別の蒸留所で研修を受けたあと、京丹後に移住。いまは元スキー場のレストハウスを改装した蒸留所に愛犬とともに、寝泊まりしながらほぼ一人でジンづくりに向き合っています。
「ジンは自由なお酒」“山の歴史”閉じ込めた一杯をつくりあげる
“どんなジンを造るべきか”真山さんが目をつけたのは、「この山の歴史」でした。
(真山さん)「これがニオイコブシです。お花もとてもいい香りが出るんですけど」
京丹後の山々は薬になる植物「薬草・薬樹」の宝庫として長年人々の暮らしを支えてきました。しかし山に入る人は減り、その文化も失われつつあります。
(真山さん)「年々数が減っている植物も分かりやすくあるので、それらを蒸留して飲める状態や香ることができる状態でずっと残せるっていうのは、面白いなと思いました」
これまでとは違った形で、豊かな山を生かしたい。真山さんは、会社が所有する山から約50種類の植物を採集し、何度も組み合わせを試しクラフトジンを完成させました。
(真山さん)「ジンは自由なお酒というのが特長なので、この京丹後という風土が造ってくれたお酒です」
真山さんと“山の師匠”がコラボレーション
京丹後の山の上にある蒸留所。5月、ここでジンづくりをする真山さんのもとを1人の男性が訪ねてきました。
(真山さん)「葉っぱとかは?」
(吉岡幸宣さん)「葉っぱは基本的に料理にも使ったりするので」
吉岡さんは京丹後市内で地元の食材をいかした料理店「魚菜料理 縄屋」を営んでいます。ジンづくりを始めた真山さんと一緒に、京丹後の山の恵みをいかした新しい酒を造りたいと考えていました。
(吉岡幸宣さん)「(真山さんと)一緒に飲んだり食べたりすると、僕もすごく刺激になると思うので、そういうのを一緒に探したりとか共有できたらすごく良いなと思います」
”驚くほど豊かな香り”のカラスザンショウに着目
京丹後で生まれ育った吉岡さんには、今回、使ってみたい植物がありました。カラスザンショウです。この時期の新芽は驚くほど豊かな香りを放ちます。
(真山さん)「初めてとりました。新芽がここまで香りが強いとは思っていなかったですね」
(吉岡幸宣さん)「きれいですね」
この山にはまだまだ、魅力的な素材が眠っています。
アルコール度数を調整する「水」にもこだわり
仕込みが始まりました。香りや味つけに使うのはカラスザンショウ一種類だけです。
(真山さん)「茎の上に葉っぱでカバーしたら居心地が良くなるんかなとか。いま詰めながら思ったので葉っぱも入れてみます」
蒸留する時間で、味と香りは刻々と変わるため、どこで止めるか感覚を研ぎ澄まします。
(真山さん)「おいしく出ていますね。
もうひとつ、重要なのはアルコール度数を調整するための水。山の「軟水」と海沿いの「硬水」の割合次第で、味わいは大きく変わります。
(真山さん)「(軟水)8対2(硬水)ぐらいが良さそうです。ほんのちょっと気持ちレベルなのかもしれないですが、飲みやすさを優先して今回は(軟水)8対(硬水)2にしました」
2人合作の新酒がお披露目!
6月13日、真山さんが吉岡さんと一緒に作った新しい酒のお披露目の日です。
(吉岡幸宣さん)「料理を楽しんで、お酒も楽しんで、飲み物もたくさん飲んで、きょうは楽しんで帰ってください」
この日は吉岡さんの店の20周年を祝うイベント。店の常連客などが京丹後の料理人たちの料理とともに、できたばかりの酒も楽しみます。
「すごい味がする甘い。最後に山椒がくる」
「単一(カラスザンショウだけ)の蒸留なので、素材そのものの感じがあってすごくおいしいです」
(吉岡幸宣さん)「おいしい。あんまり飲んだことない、そういうのがすごい良いなと思います。それこそ京丹後でやる意味があるし。そういうのをずっと追求してほしいなってすごく思います」
「生み出すものや場所と共鳴する人の輪が広がれば素敵」
6月中旬、真山さんが案内してくれたのは、蒸留所から車で50分ほど離れた山。
(真山さん)「一応ゴールです」
そこにあったのはジンに欠かせないジュニパーベリーの日本固有品種「ネズミサシ」です。
この山は地元のひとから「活用してくれるなら」と会社が格安で譲り受けました。今後、「ネズミサシ」を使って新しいジン造りに挑戦したいと考えています。
(真山さん)「山に住みながらジンを造って、生み出すものや場所と共鳴してくれる人の輪が自然に広がっていったら素敵だなと思います」
(2026年7月10日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」内『密着』より)

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