みなさんは、仕事で理不尽なクレームを受けた経験はありますか?
接客業や営業職の方であれば、一度や二度は「お客様は神様だろう!」と怒鳴り散らすクレーマーに遭遇したことがあるのではないでしょうか。
昨今、こうした顧客からの著しい迷惑行為は「カスタマーハラスメント(カスハラ)」と呼ばれ、大きな社会問題となっています。
企業側も従業員を守るため、カスハラへの毅然とした対応方針を打ち出し、電話の録音や警察への通報をもって対策を始めました。
しかし、このカスハラの波が、今、日本の教育現場を飲み込もうとしていることをご存じでしょうか。
保護者が先生たちへ「カスハラ」を仕掛けているのです。かつては「モンスターペアレント」などと呼ばれましたが、年々悪質さはエスカレートし、ハラスメントの被害は増え続けています。
この現状では、「教員になろう」と思う人が減るのも無理はありません。
教育は国の宝ですが、万人が宝を腐らせにかかっている。
今回は、学校現場にはびこるカスハラ問題の本質と、それがもたらす最悪の結末についてお伝えします。
学校は「サービス業」ではない
保護者のカスハラが増加した背景には、教育の「サービス化」と、保護者の「消費者意識」の肥大化が考えられます。現在、教育産業は過熱の一途をたどっており、私がこれまで取材してきた東大生の中にも、幼い頃から学習塾や習い事に多額の教育投資を受けてきた学生が数多くいました。
塾や予備校は、高い対価を受け取る代わりに、「目に見えるサービス(成績の向上)」を顧客(生徒・保護者)に提供します。
これはビジネスとして当たり前のことですが、この「お金を払えば、見返りとして質の高い個別サービスが受けられる」という”コスパ至上主義”の感覚が、そのまま公教育の現場へ持ち込まれているように見えるのです。
例えば、私が取材した中では「放課後の子どもの送り迎え」まがいの要求をされている例がありました。
「帰宅が遅いから探しに行ってくれ」と頼まれては、近くの公園やコンビニなどたまり場になりそうな場所を虱潰しに探し回るのだそうです。
もちろん「子どもが遅い」と心配する気持ちはわかりますが、その度に駆り出される先生方はたまったものではありません。
他にも「定時を過ぎた時間でも平気で親から『子どもが学校に忘れ物を取りに行くからみていてほしい』と連絡がある」「自分の子どものいい分だけを全面的に信用して、通報や訴訟をちらつかせながら交渉してくる」「習い事(塾)があるから宿題を免除してほしいと連絡が来る」など、数えだせば枚挙に暇がありません。
では、執事のように気を利かせればよいのかといえば、それもドツボにハマります。
『カスハラ化する保護者たち』(星海社、西岡壱誠著)では「転びかけた女子学生に大声で注意を呼びかけつつ、支えようと手を触れたら、後日親子からセクハラを含むハラスメントでクレームが入った」例などが紹介されています。
もはや教員側の「よかれ」と思う気持ちさえもがハラスメント認定の対象となっており、気を利かせようにも無視を決めこもうにも、どちらでも訴訟リスクを抱えるジレンマに陥っているのです。
学校は塾・予備校ではありません。
学校とは、子どもたちが集団生活を通して社会性を身につけ、学問の基礎やルールを学ぶ「教育機関」であり、「ただ勉強ができるようになればよい」「勉強ができるようにしてもらえればよい」という場所ではないのです。
同じように、教員は「サービス提供者」ではなく「教育者」であり、保護者は「お客様」ではなく「ともに子どもを育てるパートナー」のはず。
ですが、先ほど挙げてきた「カスハラ親」たちは、まるで「お金を払っているんだから、当然でしょ?」とでも言いたげな非常識極まりない「お客様」として君臨しているようです。
そして、自分の思い通りにならないと、「私は客だぞ」と言わんばかりに、カスハラに走るのです。
自らの首を絞めるバカな行為
厄介なのは、カスハラ親たちがみな自覚に欠けていること。彼らの自覚は「カスハラ親」どころか「子どものために正当な要求をしている素晴らしいママ・パパ」。態度を改められるはずがないのです。
しかし、教員の労働時間は限られています。ただでさえ授業の準備、部活動の指導、事務作業などで多忙を極める中、一人のクレーマー親の対応に何時間も割かれれば、当然、授業準備へ避ける時間も削られ、生徒ひとりひとりへ目を配る余裕も失われます。
実際に、取材した某学校の先生は「親の要求が苛烈になってきたせいで、特に勝手の分からない若手の時はひどい残業地獄だった。もちろん、教材研究に気を回す余裕なんてなかった」と悲しげに語っていました。
親がカスハラするほどに、子どもが受ける教育環境は破壊され、教育のコスパを最悪なものにしているのです。
自分のことばかりしか考えられない短絡的・近視眼的な愚かな親が騒ぐことで、学級全体へ損害が押し付けられている。もはやカスハラ親は、先生のみならず全ての教育に関わる大人の敵です。
先生との協力関係こそが教育投資である
「先生は聖職者だから、親の意見を真摯に受け止めるべきだ」そんな前時代的な精神論で教員に無限の忍耐を強いる時代は、もう終わらせなければなりません。
先生だって、人間です。嬉しい時も悲しい時も、好きな人も苦手な人もいる。それを忘れて、まるでAIに接するかのように非人道的な扱いをしては、巡り巡って自分が損をするのです。
最近では「コスパ」「タイパ」を気にしては、浅はか極まりない手法や態度を「ライフハック」としてありがたがる風潮があるように見えます。
頭を良く見せたいのかもしれませんが、「巡り巡って損をする」状況を招く”正当な要求”が、果たして賢者のふるまいかと言われれば、正直そうは思えません。
子どもに豊かな教育環境を与えたいのならば、先生を敵に回して疲弊させるのではなく、互いにリスペクトを持って協力し合う関係を築くべき。
それこそが、最もコスパが良く、子どもの未来を明るく照らす「最強の教育投資」なのだと感じます。
<文/布施川天馬>
―[東大卒作家・布施川天馬の教育キャリア通信]―
【布施川天馬】
著述家、教育ライター。 一般財団法人「ドラゴン桜財団」評議員。 1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を編み出し、一浪の末東大合格を果たす。著書に最小コストで結果を出すノウハウを体系化した『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』など。株式会社カルペ・ディエムにて、お金と時間をかけない「省エネスタイルの勉強法」などを伝える。MENSA会員。(Xアカウント:@Temma_Fusegawa)
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