―[東大卒作家・布施川天馬の教育キャリア通信]―

みなさんは、昨今教育界隈で話題に上る「体験格差」という言葉をしっていますか?
子どもたちがどのような体験・アクティビティに触れられたかで、成人前後の人生経験値が大きく異なってしまうことを指します。

教育や親の資金力を通じて格差をさらに倍増させてしまうとして、今井悠介氏による『体験格差』(講談社)など、様々な書籍、論文などで取り上げられています。


体験格差が生じるところといえば、「海外旅行に行けるかどうか」「高価なサマーキャンプに参加できるか」「珍しい習い事をさせてもらえるか」といった、多額の費用がかかる特別なイベントの有無を想像されるでしょう。

確かに、湯水のように教育費を使える富裕層の家庭であれば、子どもに提供できる体験の選択肢は無数にあります。そのため、「体験格差とは、親の資金力の差である」と諦めてしまう親御さんも少なくありません。

しかし、実態は「必ずしも貧乏人では勝ち目がない」わけでもなさそうです。

私はこれまで100人以上の東大生を取材し、彼らの幼少期の過ごし方について調査してきました。

私自身も世帯年収300万円台という、都内では明らかに貧困に分類される家庭から東大へと進学しています。

そうした取材の結果、「親の見識と工夫の差」によって、体験格差を少しでも埋めることはできるのかもしれない可能性が見えてきました。

もちろん、お金を使ったゴージャスな体験が「できない」不自由はあるでしょう。しかし、不平を漏らせば金銀財宝が湧いてくるわけがないですし、子どもの成長は止められない。

無いものねだりではなくて、「ありもので、どう間に合わせるか」を考えるのも、立派な工夫でしょう。

そして、高いお金を払わなくても、日常風景にこそ、子どもの知的好奇心を強烈に刺激し、思考力を鍛える「生の体験」が溢れています。

今回は、お金を一切かけずに、日常生活の中で体験格差を埋めるための具体的なアプローチについてお伝えします。


海外旅行ムリ、習い事ムリ…でも「体験格差を埋める方法」を東大...の画像はこちら >>

スーパーマーケットは「生きた経済と地理」の教科書

例えば、みなさんが普段何気なく利用している「スーパーマーケット」。

ここをただ「ごはんの材料を買い出す場所」として終わらせてしまうのは、あまりにももったいない。親の工夫次第で、スーパーは最高の知育空間へと変貌します。

まずは、子どもと一緒に野菜や魚のコーナーに行き、「産地」を見比べてみてください。

そして、「今日のトマトは熊本県産だけど、冬になったらどこから来るんだろう?」「どうしてこのお魚は遠くの北海道から運ばれてきているのに、こっちのお魚よりも安いんだろう?」と問いかけてみるのです。

さらに踏み込むなら、近所の安い大衆向けスーパーと、駅前にあるちょっと高級なスーパーをはしごして、「品ぞろえや値段の差異」を一緒に観察するのも面白いでしょう。

「なぜ同じ牛乳なのに値段が倍も違うのか」「高級スーパーにはなぜ見慣れないスパイスがたくさん並んでいるのか」「それぞれのお店には、どんなお客さんが来ているのか」考える材料は無限にあります。

もちろん、親御さんの側に知識がない場合もあるでしょう。そういった際には、親子で本を開いて勉強してみるのもいいかもしれません。

実際に、東京大学経済学部に現役推薦合格した下村英理さんの『スーパーって観光地やねん』(青月社)では、かわいらしいイラストに起こされた様々な特産品・名産品が、豆知識やコラム付きで紹介されています。

「なぜ?」を子どもと一緒に考えることで、子どもは単なる買い物を通じて、日本の地理や物流の仕組み、さらには需要と供給という経済の基本ルールまでを肌で学ぶことができます。

机に向かってドリルを解かせるよりも、ずっと深く生きた知識として定着するでしょう。

街歩きで育つ「観察眼」と「論理的思考」

遠くの大自然や海外の世界遺産に行かなくても、近所の街歩きだけで十分な体験学習は可能です。

例えば、家の近所の「街道の並木」と「公園の植生」の違いに気づかせたことはありますか?

街道沿いには排気ガスや乾燥に強い特定の樹木が植えられていることが多く、一方で公園には四季を感じさせる多様な植物が配置されています。


これをただ「木が生えているね」で終わらせるか、「どうして道路の横と公園の中では、生えている木の種類が違うんだろう?」と問うかで、子どもが得られる経験値は天と地ほど変わります。

また、「街の地理」自体を取り上げてみるのもいいでしょう。「どうして、この街には坂が多いのに、隣町には少ないんだろう?」「どうして地下鉄の丸の内線は一度地下から地上に出てくるんだろう?」「どうして山手線には、階段を上った先にホームがある駅と、下った先にホームがある駅が混在しているんだろう?」など、私たちが何気なく暮らす「この街」自体にも、多くの学びが隠されています。

こういった内容が気になったのであれば、『自然のしくみがわかる地理学入門』(ベレ出版)を読んでみてもいいでしょう。

東京や大阪の都心部を中心に、様々な地理的疑問を解消してくれる一冊です。これはお子さん向けだと難しすぎるでしょうから、ぜひ保護者の皆様がかみ砕いて説明してあげてください。

お金で買えない「問いかけ」の価値

お金を払って参加するパッケージ化された体験ツアーも、もちろん素晴らしいものです。しかし、そうした体験は時に「与えられたものを消費するだけ」の受け身の姿勢を生み出しかねません。

それに対して、日常の中に転がっている「見過ごされがちな事象」にスポットライトを当て、自ら問いを立てて答えを探求する経験は、能動的な思考力を強烈に育てます。

これこそが、のちの学力や、AI時代に必須とされる「自ら課題を見つける力(非認知能力)」に直結すると私は考えています。

私自身、子どもの頃に旅行に連れて行ってもらった記憶はほとんどありませんが、その代わり、親と一緒に近所を歩きながら「あれは何?」「どうしてああなっているの?」と絶え間なく語り合っていました。

思えば、その「日常を観察し、考える癖」こそが、限られた資源の中で私を東大合格へと導いてくれた最大の武器でした。


親のちょっとした見識と、日常の風景に対する「問いかけ」一つで、子どもの世界はどこまでも広く、深くしていくことができる。

逆に言えば、親御さんたちにとっては、かなり酷な話でしょう。つまり、「子どもの成長に、親の教養や知識、勉強への姿勢が、ダイレクトに影響してしまう」からです。

まずは今日の帰り道、お子さんと一緒に身の回りの「なぜ?」を探してみてはいかがでしょうか。そこから、何十万円もの教育投資にも勝る、本物の体験が始まるはずです。

<文/布施川天馬>

―[東大卒作家・布施川天馬の教育キャリア通信]―

【布施川天馬】
著述家、教育ライター。 一般財団法人「ドラゴン桜財団」評議員。 1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を編み出し、一浪の末東大合格を果たす。著書に最小コストで結果を出すノウハウを体系化した『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』など。株式会社カルペ・ディエムにて、お金と時間をかけない「省エネスタイルの勉強法」などを伝える。MENSA会員。
(Xアカウント:@Temma_Fusegawa)
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