昨年、何が残念だったかと言えば赤塚不二夫の死去だろう。タモリの有名な「私もあなたの作品です」という弔辞。
心にグッと突き刺さりました。赤塚マンガの作風は、あらゆる人に影響を与えている。

そして、そんな赤塚不二夫に影響を与えた漫画家がいるのをご存知だろうか? その名は「杉浦茂」。特異な作風とユーモアセンスから、漫画家の赤塚不二夫、小説家の筒井康隆、音楽家の細野晴臣など、各界に熱烈なファンがいることで知られる、伝説の漫画家である。

杉浦茂は、現在の「サンデー」や「マガジン」が創刊される以前の約50年前に活躍していた人物なのだが、杉浦茂に関するとっても驚いたエピソードがあるのだ。
赤塚作品でも特に印象深いキャラクターなのが「レレレのおじさん」。この「レレレのおじさん」は、赤塚不二夫が杉浦作品をオマージュして作られたキャラクターと言われているという。どの作品の、どの登場人物というわけではないのだが、杉浦作品の造形や動きなどをマネ・引用して描いたのが「レレレのおじさん」らしいのだ。

それほどの影響力・伝説を持った杉浦作品が、このたび復刊される。絶版マンガ作品の復刊を手がけるコミックパークが、「杉浦茂オンデマンド選集」の販売を開始。3月20日より5月24日まで京都国際マンガミュージアムで開催される「冒険と奇想の漫画家 杉浦茂101年祭」とのコラボレート企画として刊行されるというのだ。

今回、サイトからの注文生産方式(オンデマンド出版)で復刊されるのは5作品。
第一巻は『忍術合戦』という猿飛佐助が活躍する忍者マンガ。第二巻は『拳斗けん太』という格闘ものの作品。第三巻は『宮本武蔵』。第四巻は『弥次喜多珍道中』。第五巻『弾丸トミー』の5作品である。「杉浦茂オンデマンド選集」ページでは、作品の一部を試し読みできるのだが、そのノリのよさと50年前とは思えないナンセンスさに、本気で笑ってしまった。今でも、全く古さを感じさせないのだ。

杉浦茂が活躍していた昭和30年代は、漫画誌に付録が付いていた時代。その付録も何十ページもある立派なものだったらしい。そして、杉浦作品には付録に収録されたマンガが多く、当時は“単行本”という概念もなかったので、今回の復刊はマニアも読んだことのない貴重な作品を甦らせる、非常に意義のある試みなのである。

実は杉浦茂は芸術や音楽の活動をしているサブカル方面の方々からの人気が、かねてより絶大だった。
京都で開催されている「冒険と奇想の漫画家 杉浦茂101年祭」では、「サエキけんぞう、杉浦茂を語る」というトークイベントも行われる。
また、杉浦茂は「へたうま漫画系の元祖」とも言われており、その愛おしいキャラクターたちがアート的にも評価が高い。101年祭には、サブカル系の若者の姿が多く見られており、支持層は非常に幅広いのだ。

ちなみに、「杉浦茂オンデマンド選集」担当者に、今回の復刊作品のオススメをお伺いした。
まず推薦されたのが『忍術合戦』。この作品のような忍者ものコミカルギャグマンガは、杉浦茂のお得意とするもの。杉浦作品を好きな人には、うってつけのマンガとなっている。
続いては、『拳斗けん太』。当時は力道山に絶大な人気があった時代で、杉浦茂も力道山のファンだった。『拳斗けん太』は、そんな時代背景によって産み出された、杉浦作品の中では珍しい格闘ギャグマンガである。

この「杉浦茂オンデマンド選集」は3月18日から発売されているのだが、購入する方は1巻ずつの購入よりも、まとめての大人買いをするケースが多いとのこと。価格は1巻945円(税込み)である。
そのほか、オンデマンド選集から一部を抜粋した「杉浦茂ニコニコ大会」(青林工藝舎)や、101年祭の公式ガイドブック「杉浦茂の摩訶不思議な世界 へんなの……」(中野晴行編 晶文社)が記念企画として書店販売されている。


杉浦作品に共通して言えるのは、ほのぼのとしていながら、変わったセンスを見せてくれる部分。杉浦作品へのオマージュと言われる「レレレのおじさん」だが、あんなキャラクターが、杉浦茂のマンガにはたくさん登場する。
デザイン的にもシュールさが漂い、ユーモアに特徴があり、その上ほのぼのしている。そんな漫画家は、昔も今もナカナカいない。
杉浦茂ファンはもちろん、新たな漫画趣味を開拓したい人は是非一読を!
(寺西ジャジューカ)
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