「三角点(地図作成などの基準点)に関する問い合わせが増えました。『三角点って何ですか』という一般的な質問から、当時(明治時代)の陸地測量部の役職名について調べたいなど、マニアックな問い合わせが増えているように感じます」
日本の地図を司る国土交通省国土地理院。
広報広聴室に尋ねると、この夏公開になった映画『点の記』の影響についてこんな答えが返ってきた。映画の原作は、史実を元にした新田次郎の同名の小説だ。

映画や小説の舞台となったのは富山県の剱岳。小説にあるとおり、山が険しすぎて当時は三角点の標石を運ぶことができず、つい最近まで三角点がないままだった。重さ63kgの標石が山頂に置かれたのは平成16年。映画に登場する柴崎測量官が頂に立ってから97年後に、やっと設置されたのである。


ところで、マニアックな話になるが、三角点の標石を上から見ると、「+」と「×」の2種類がある。どっちが普通かというと「+」の方で、剱岳に設置されたのも「+」。旧宮内省が皇室の土地を管理するために設置した「御料局三角点」を別にすると、「×」はかなり珍しい。ここである情報によると、静岡県の黒法師岳の山頂に、一等三角点としては日本で唯一かもしれない「×」があるという。ということで、実際に行ってみた。

実はこの山、登山道があるようなないような山。
いいかげんに歩いていたら途中で道を間違え、1時間ほどロス。山頂まで片道10時間かかったが、何とかたどり着き無事写真撮影成功。

さて、標石の「+」と「×」の違いは何なのか。何か意味があるに違いない。再び国土地理院に聞いた。
「特にないと思います」
えっ、そうなの。
苦労して写真撮ってきたんですが……ではどうして、黒法師岳は「×」なのか。石工さんが間違えたという巷の噂(?)は本当だったのか。
「明治時代、最初に設置した三角点の標石は現地調達でした。測量官が各々作製したわけで、材質や寸法が異なるものもありました。しかし、黒法師岳に設置された明治32年頃には『陸地測量標條例』も制定され、形状等も統一されていたものと思われます。(×印になったには)何らかの理由があったのでしょうが、特定は困難です」(国土地理院)

今回わかったのは残念ながらここまで。
剱岳のように、黒法師岳の三角点にも何かドラマが隠されているような気がするのだが……余談になるけれど、三角点はあくまで地図作成や各種測量のためにある。見通しが優先されるので、必ずしも山のてっぺんにあるとは限らない。山の高さと三角点の高さは違うことがあるから、注意しよう。

近年はGPSを使った「電子基準点」が全国各地に設置されているそうで、時々刻々の日本列島の地殻変動まで捉えているのだという。「点」の役割も、時代と共に変わってきたようです。
(R&S)