『ドラえもん』の声優陣が新キャストにバトンタッチしてから、早くも12年の年月が経った。昨年10月には前スネ夫を演じた肝付兼太さんが逝去。
スネ夫役を引き継いだ関智一は「楽しく演じていきます」と肝付に心からのメッセージを贈る。実力派声優の筆頭である関だが、“国民の永遠の友だち”というべき役柄に今、どう向き合っているのか。声優力を育む秘訣までを聞いた。

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 藤子・F・不二雄が生み出した国民的アニメ『ドラえもん』。劇場版シリーズ37作目となる『映画ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険』は、南極が舞台のオリジナルストーリーだ。10万年前の世界を訪れたのび太たちが危機に立ち向かう冒険の物語だが、スネ夫が勇気を出す一幕も。
関は「いつもは弱い部分を見せることが多いスネ夫ですが、ここ何作かはジャイアンと一緒にみんなの窮地を救うために立ち上がる機会があって。でもそこがかっこよすぎず、調子に乗っているように見えるところがかわいいなと思っています。とてもキュートです」と愛情たっぷりに語る。

 大きな役を得てからの12年について、「本当に早かった」と述懐。先代の肝付さんからは「スネ夫について“こうしてほしい”など言われたことはないんです」と明かすも、肝付さんの背中を見て「演じることがものすごく好きで、楽しんでやってらっしゃった。僕もそうあり続けたいと思っています。
亡くなるまで現役でお仕事をされていたというのは、至難の技。うらやましいし、ものすごいことだと思います」と大きなものを受け取った。

 誰もが知っているキャラクターを受け継ぐことにプレッシャーはもちろんあったが、「更新していく」との思いで臨んでいるという。「スネ夫は藤子先生からお預かりしているもの。肝付さんが大事にされた26年があって、僕なりに大事にする今がある。受け継ぎ方にも色々ありますが、ただ真似るだけではなく、肝付さんへのリスペクトは持ちながら更新していきたいと思っているんです」。


 そこにはキャラクターは「作者のものであって、ひいてはお客さんのもの」という“演者”としての強い意志があり、だからこそ生き生きとしたスネ夫が今、存在しているように感じる。「もちろんこの役は自分のものだという自負もあります。でも作者がいて、お話があって、それを観てくださるお客さんがいる。そういう意味ではお客さんが楽しんでくれることが一番。何年か僕なりに演じた後は、おそらくスネ夫のバトンを後輩に渡すことになると思いますが、その人なりにスネ夫を愛して、楽しんでほしい。更新して、上塗りしていってほしい」。
 「関なりのスネ夫」を作るためには、「子どもらしさを大事にしている」そう。「どうやったら子どもらしいのかを分析したり、考えている。自分にとっては通り過ぎている時代ですから、居場所が違う。見えている風景、背の高さも違いますから」。

 スネ夫を体現するために悩んだ時期を経て、今や「スネ夫が日常になった。同体のような感じ」と話す。
「特別に感じたり、祭り上げたりしているうちは、どこかよそよそしいじゃないですか。恋人もそうですが、最初のうちはなんでも許したりしちゃって(笑)。でも愛情深くなってくると空気のようになってきて、日常の一コマになる。もう12年ですからね。自分と同等くらい、大事に思っています」。

 関からは「演じることを楽しむ」との言葉が何度も飛び出す。
プロが選ぶ「声優総選挙」でも5位にランクインするほどの実力派だが、声優力を育む秘訣を聞いてみるとこんな風に教えてくれた。「アニメが好きで業界に入って来たとしても、そこで声優を選んだならば、アニメの先に絶対に演技がある。演じることを好きになることが大事だと思います。“こうやらなければ”と決めるのではなく、“こんなこともできるんじゃないか”と幅を広く、視野を広げていった方がいつだって楽しいと思うんです」。(取材・文・写真:成田おり枝)

 『映画ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険』は3月4日より公開。