現在、放送中の新作『ツイン・ピークス』で、目が見えない謎の女性“naido”をミステリアスに演じた女優の裕木奈江。2006年の映画『インランド・エンパイア』でデヴィッド・リンチ監督の目に留まり、今回、直々にオファーを受けたという彼女が、憧れの『ツイン・ピークス』チームの一員になれた喜び、主人公クーパー捜査官(カイル・マクラクラン)との“衝撃的”な出会い、さらには国際派女優として意欲を見せる現在の心境について熱く語った。


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 25年ぶりに奇跡の復活を果たした『ツイン・ピークス』最新シーズンも、いよいよ後半に入り、散りばめられた伏線が右往左往しながらも、少しずつ回収され始めている。今回、初参加となった裕木は、第3話で本人と識別ができないほどショッキングな特殊メイクで登場。ある意味、クーパー捜査官を命がけで守る?重要なミッションを担っていたが、パニックのあまり自ら感電し、あえなく宇宙の彼方に散ってしまう。果たしてnaidoとは何者なのか、彼女の役割は本当にこれで終わりなのか…?

 リンチ監督と出会うきっかけとなった『インランド・エンパイア』。そもそも、どういう経緯で出演することになったのだろうか。「ハリウッドでは、組合に入らないと、作品への出演はおろか、オーディションにも呼んでいただけないので、実績を作るためにエキストラの仕事を探していたんですね。
そんな時に偶然、『インランド・エンパイア』の募集があって。大好きな監督でしたし、現場も見たかったので、迷うことなく参加しました」。ところが、挨拶に来た裕木に“何か”を感じたリンチ監督は、急遽、セリフのあるホームレス役に抜擢し、たどたどしい英語で不思議な言葉をまくし立てる彼女から、新しい魅力を引き出した。

 その時の裕木を鮮明に記憶していたリンチ監督は、今回、直々にnaido役をオファー。ところがそれは、予想を遥かに超える衝撃的な役だった。「台本には“目を縫い付けられた女”と書いてあったのですが、活字を読んでも全くヴィジュアルが浮かばなかった」と振り返る裕木。
「実際は、目も声も奪われた苦しさを抱えながら、身振り手振りでクーパー捜査官に危機を知らせる役ですが、物語の全容は一切知らされず、そのシーンに私がどう反応すべきか、そこだけをリンチ監督に指導されました」。 目にはシリコンのような薄い膜を貼り付け、『インランド・エンパイア』で魅せたチャーミングな裕木の目は、完全に封印されるという“やられた”感たっぷりのサプライズ。「周りが全く見えない中、ハイヒールでハシゴを上ったり、宇宙空間に落ちていくシーンで宙吊りにされたり、結構、怖かったんですよ」と話す裕木。特殊メイクがあることから、誰よりも早く現場に入り、誰よりも遅く現場を出るため、クーパー捜査官役のカイルとはずっとすれ違いだったようで、ようやく顔を合わせた時には、目の前に日焼けしたロン毛のマッチョが立っていた。「初めて挨拶したのが、なんと悪のクーパーだったんです(笑)。その頃、状況が全くわからなかったので、“何それー!”って叫んじゃって、カイルも周りのスタッフもニヤニヤしていましたね」。


 新作『ツイン・ピークス』『インランド・エンパイア』、クリント・イーストウッド監督作の『硫黄島からの手紙』、さらにアイスランドのホラー映画『レイキャヴィク・ホエール・ウォッチング・マサカー』など、近年、海外での活躍が目立つ裕木。「今は日本とL.A.と半々で活動していますが、世界でやるぞ!とか、そういう気負いはなくて、お仕事をいただいたらその国に行って演じるというだけですね」と軽やかなスタンスを強調。

 「デビューしてから、『学校』で山田洋次監督と出会ったり、『北の国から』シリーズに出させていただいたり、仕事運はすごく良いんです。L.A.に行っても、相変わらず恵まれていて、リンチ監督の作品に絶対出たいと思っていたら本当に叶った。特に『ツイン・ピークス』は憧れでしたから、そのチームの一員になれたことがとにかく夢のようで」と思いを噛みしめる。「今年の5月にL.A.でワールドプレミアがあって、9月に全米放送が終わったんですが、今は完全に『ツイン・ピークス』ロス。
リンチ監督がまた撮る気になって、呼んでくれたら嬉しいですね」と切ない気持ちを吐露していた。(取材・文・写真:坂田正樹)

 新作『ツイン・ピークス』は、WOWOWプライムにて毎週土曜21時ほかにて放送中。今冬全話一挙放送。