■「M&A」の認識を履き違える日本の経営者

 「リーマン・ショック」から1年、世界的に続く不況の出口は未だにその姿を現さずにいる。では、どうしてこのような状況が続いているのだろうか。
冒頭で著者・岩崎日出俊氏は次のように指摘する。

 「(日本の株価が低迷しているのは)企業が価値を創造できなくなっているからだ。そしてそのことには、日本の経営者がM&Aについて間違った認識を持っていて、グローバル資本主義への対応を履き違えてしまっていることも大きく影響している。」

 つまり、現在の日本では、市場主義経済が本来持っている「不適切な経営者を市場が交代させる」という企業の自己修正機能が働かなくなってしまっているというのだ。

 「M&A」と聞くと、ダーティーな言葉として捉えられがちだ。確かに最初にメディアに出てきたとき、「何処の馬の骨か分からないような経営者」が繰り返し使い、本当の意味が伝わらないまま、「未知の新しい言葉」として人々に受け入れられた経緯がある。

 しかし、「M&A」の本質を知ると、そうしたイメージはまったく異なるものであり、世界のビジネスを上向かせるための1つの大きな手段であることが、必ず分かるはずだ。

 また、この「M&A」を理解することによって、企業がどのように動いているのか、そしてどのように経済を動かそうとしているのかが分かってしまうのである。

 本書は身近な企業の例を用いながらM&Aの正しい姿を読者に見せることで、M&Aの誤認を解き、失われた市場の自律を呼び戻すことを目的として執筆されている。まさに、M&Aの「新しい教科書」の名にふさわしい本であると言えよう。


■映画「ハゲタカ」の世界は現実にありえるのか?

 今年公開され、話題になった映画「ハゲタカ」。中国の国家ファンドが日本最大の自動車会社に買収をしかけるというストーリーだったが、果たして現実の世界でもそういったことは起こりえるのか?

 答えは「イエス」である。

 トヨタ自動車が他国の国家ファンドに買収される可能性も0ではないのだ。

 トヨタの時価総額は12兆円と、日本で最も時価総額が高い企業である。しかし、世界には、この12兆円を超える資産を持つ国家ファンドがアブダビ投資庁、ノルウェー政府年金基金、シンガポール政府投資公社などをはじめ9つもあり、トヨタを買収するだけの資金力を持っている。
 このことだけでも「ハゲタカ」は荒唐無稽な世界ではないと言える。

 また、トヨタは証券など他業種に手を伸ばすなど、端から見ると「迷走」とも思えるような動きを見せ、企業そのものが借金依存体質から抜け出せずにいつつある。
 著者はGM(ゼネラル・モーターズ)を例にあげた上で、トヨタのGM化を危惧する。もちろん、トヨタとGMは違うが、経営者たちが判断を誤れば、GMと同じ道を辿る可能性になることは否めないのだ。



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『M&A新世紀―ターゲットはトヨタか、新日鐵か?』
著者:岩崎日出俊
出版社:KKベストセラーズ
定価(税込み):1575円
発売中


【関連リンク】
新刊ラジオ第966回 『M&A新世紀 ターゲットはトヨタか、新日鐵か?』
新刊JP NOW FEATURING BOOK INFORMATION 『M&A新世紀  ターゲットはトヨタか、新日鐵か?』