綿矢さんは、昨年『かわいそうだね?』で大江健三郎賞を最年少で受賞し注目を集め、本作が受賞後第一作となる。
『ひらいて』は、主人公の女子高生「愛」の内面の変化と、それに伴う行動に焦点を当てた一人称小説。
高慢でどこか冷めた性格の愛は、いつからか同じクラスの男子生徒に恋をする。そのまなざしや態度、一風変わった名前など、彼の持つすべてが愛をひきつけ、彼に夢中に。
彼女は彼をもっと知りたい一心で、予備校の仲間たちと共に夜の学校に忍び込み彼の机の中を漁るという大胆な行動に出るが、そこで彼に恋人がいることを知ってしまう。
しかし、愛の気持ちは冷めるどころか、ますます熱く彼に、そしてあろうことか彼の恋人に向けられていく…。
愛の彼への恋心は痛々しいほど切実だが、その切実さゆえか、思い悩んだ末に取る行動はあまりに破天荒で、どこかコミカル。
デビュー時から評価されてきた綿矢さんの丁寧な心理描写はこの作品でも一層冴え、それは慌ただしく動く物語の終盤をしっかりと支えている。スピード感のある展開だが、粗さはない。
サイン会には約140人の読者がつめかけ、大盛況。
訪れたひとりひとりと言葉を交わしながら、ゆっくり、丁寧にサインを書いていく綿矢さんの姿が印象的で、どこか彼女の仕事ぶりを象徴しているように思えた。
(新刊JP編集部)