●ドーナツの本格的な販売に乗り出すセブン

 11月27日、コンビニエンスストアチェーン最大手セブン-イレブンは来年から本格的にドーナツの販売に乗り出すことを発表した。これまで特定の店舗で試験的に販売を行い動向を注視してきたが、関西地区のある店舗では1日に1000個も売り上げるなど好調なことから、順次取り扱いを拡大し、来年夏までには全国の1万7000を超える店舗に導入することを決定した。



 ドーナツはレジ横のカウンターに鮮度を保つための専用機を設置。精算の際についで買いを促す仕掛けで販売増を目論む。また、専用機の上には「セブンカフェと一緒にどうぞ」というメッセージと共にコーヒーカップを置き、ドーナツと相性の良いコーヒーの購入を勧めるなど、今や主力の戦略商品となった淹れ立てコーヒーとの相乗効果でさらなる売り上げアップを見込む。

 このセブンのドーナツ販売の参入により予想されるのが、他のコンビニやドーナツ専門店を巻き込んだ競争激化だ。

 セブンが淹れ立てコーヒー「セブンカフェ」の販売を開始した2013年には、業界の垣根を超えてコーヒー戦争が勃発。セブンカフェが1年で約5億杯を売り上げる大ヒット商品となった影響で、マクドナルドや缶コーヒーメーカーは顧客を奪われ苦戦を強いられることになった。


 一方で、セブンの攻勢をものともせずに、共にコーヒーブームを牽引したのがスターバックスなどのコーヒー専門店。コンビニコーヒーの爆発的なヒットに伴い、コーヒー市場の裾野が広がり、より本格的なコーヒーが飲みたいという顧客のニーズの高まりに応えることによって成長につなげてきた。

 このような13年から起こったコーヒー戦争と同じような展開が、今度はドーナツ市場で繰り広げられることは想像に難くない。

●ドーナツ市場、セブンの参入でどう変わる?

 今回のセブンのドーナツ市場参入により大きな影響を受けるのが、ドーナツ販売チェーン最大手ミスタードーナツだ。市場調査会社・富士経済の調査によれば、13年のドーナツ市場は1137億円だが、そのうちの1030億円をミスタードーナツが占めており、マーケットシェアは実に90%に達する。つまり、ドーナツ市場では「ドーナツ=ミスタードーナツ」といっても過言ではないほどに、ミスタードーナツが圧倒的なブランド力を誇っているのだ。


 ただ、いかにドーナツ市場で支配的なリーダーの地位にあるミスタードーナツにとっても、相手がコンビニ業界のリーダーで飛ぶ鳥を落とす勢いのセブンでは脅威を感じざるを得ないだろう。店舗の規模でみれば、ミスタードーナツの1350店(14年3月末現在)に対してセブンは10倍以上の1万7177店(同11月末現在)。売り上げに至っては1030億円に対して3兆8000億円と実に38倍もの開きがあるのだ。

 セブンは、自社の強みである規模の大きさをフル活用してドーナツを大量生産することで、コストを抑えることも可能になり、低価格を武器に市場を切り崩すこともできるだろう。実際にセブンのドーナツ販売価格は、6種類のうち5種類が100円、そして1種類が130円と、ミスタードーナツの同様の商品よりも若干安い価格設定で、顧客を奪おうという戦略が見て取れる。

 新製品を市場に投入する際には早期に利益を上げるために相対的に高い価格を設定するスキミング・プライシングと、早期に高いマーケットシェアの獲得を図るために相対的に安い価格を設定するペネトレーション・プライシングがあるが、セブンは後者を選択し、一気に業界でのポジションを固めていこうという作戦なのだ。


 セブンの発表では、発売初年度に4億個、翌年度は6億個の販売を目指すとのことなので、もし計画が達成されれば、その売上高は最低でも600億円に達し、わずか2年で現在のドーナツ市場の半分以上を超える計算になる。もし、このセブンのドーナツ売り上げがすべて既存のドーナツ市場から奪ったものとすると、ミスタードーナツの売り上げは400億円から500億円程度へ急減する計算となる。つまり、この2年のうちにセブンが600億円の売り上げで業界首位に躍り出る一方で、ミスタードーナツは2位に転落することになるのだ。

 もちろん、セブンはミスタードーナツが出店していない地域にまで出店しているため、ドーナツの売り上げのすべてを競合店から奪うわけではないが、これまで無風地帯といっても過言ではなかったドーナツ市場に大きな変動が起こることは間違いないだろう。

●迎え撃つミスタードーナツの取るべき戦略

 では、セブンを迎え撃つ側のミスタードーナツは、どのような戦略で対抗すべきだろうか。

 もちろん、価格をセブンと同等にして真正面から対抗することもできるが、安易な値下げはこれまで築いてきたブランド価値の毀損につながるし、収益悪化に直結するので得策とはいえないだろう。
コーヒー戦争の際には同じ価格でも敗れ去ったマクドナルドの前例があるだけに、同じ轍は踏みたくないはずだ。

 やはり、ドーナツ専門店として顧客の信頼を獲得してきたミスタードーナツは、価格で対抗するのではなくスターバックスが成功したように専門店ならではのクオリティの高さを武器に、セブンでドーナツの良さに目覚めた顧客を呼び込む戦略が賢い選択といえる。

 果たして、セブンのドーナツ市場参入によって巻き起こるドーナツ戦争は、ミスタードーナツにとって成長の起爆剤となるのか、それとも市場支配の終焉となるのか。今後の展開に注目が集まる。
(文=安部徹也/MBA Solution代表取締役CEO)