12月から1月にかけてはクリスマスにカウントダウンイベント「ニューイヤーズ・イヴ」と大人気イベントの連続で、東京ディズニーリゾート(TDR)のかきいれ時だ。しかし、“夢の国”とは名ばかりで、TDRの労働環境は悪化する一方だという。



「12月は忙しくフル稼働で、有給休暇は取らせてもらえません。逆に1月は2週目になるとゲスト(客)が減少し、キャスト(従業員)は思ったようにシフトに入れなくなります。そして3月までは閑散とするために、働くことのできる時間が少なくなり、ほかのアルバイトをせざるを得ないこともあります」

 このようにTDRの労働実態について明かすのは「オリエンタルランド・ユニオン」だ。同団体は、2014年3月末に「TDRのショーやパレードをリニューアルする」との名目で突然解雇されたパフォーマーたちがTDRを運営するオリエンタルランドと団体交渉するために結成したものだ。TDRの偽装請負契約問題について4月末に東京労働局に申告し、団体交渉も要求しているが、オリエンタルランド側は請負業者と請負契約を結んでいる「注文主」の立場にすぎず、雇用契約も指揮命令関係もなく、労務管理にも関与していないとして拒否し続けている。

 これからの季節、ユニオンが心配しているのは寒さ対策だ。

「徹底したコストカットでキャストはほぼ最少人数しか配置されていないのがTDRの現実で、夏は熱中症でバタバタとキャストが倒れ、冬はインフルエンザやノロウイルスが流行します。毎日、数万人のゲストと接するために、流行も早いのです。しかし、現場は最少人数しか配置されていない上に、インフルエンザやノロウイルスでキャストがやむなく休むと、他の部署から補充することになります。補充が間に合わない状態になると病気でも休めなくなり、次々に他のキャストへ病気をうつす悪循環になります。その結果、ショーの場合は欠員が目立ち始めると、レギュラーのショーとは異なる“スペシャルショー”として少人数で上演可能な別企画を実施します。それでも開催が不可能になると、『機械の故障』として休演になるのです」(同)

 TDRにとっては、キャストは人間ではなく“機械”として見えているのかもしれない。


●深刻な人材不足の飲食施設

 最近は景気の改善に伴って正社員志向となっているのか、アルバイト応募者は減少している。そのため、ますます現場は苦しくなっているといい、この冬はTDRのキャスト募集広告が目立つ。

「TDRはキャスト募集を頻繁に行っていますが、募集しているのは、忙しい時期限定の短期キャストと『フードサービスキャスト(飲食施設の接客)』『カリナリーキャスト(調理・洗い場)』が中心です。つまり調理関係の部署が不人気なのです」(同)

 それもそのはず、食事時ともなれば、どの店も場内の数万人のゲストが殺到して行列をつくる。「単純作業の繰り返しで、しかも作業量が膨大なため、腱鞘炎にかかったりケガをする人も少なくない」「リゾート外の飲食店のほうが働きやすい」といった声も多い。コストカットで最少人数のキャストしか配置しないので、調理関係も過酷なのだ。飲食施設でも機械のように働かされている。

 キャスト募集に関して、かつては募集広告を最寄りの路線には決して出さなかったという。オリエンタルランド入社組で、マーケティング担当として「集客数目標1000万人」プロジェクトを担った渡邊喜一郎氏は、著書『ディズニー こころをつかむ9つの秘密』(ダイヤモンド社) の中で次のように述べている。

「『興ざめ』させないという部分では、私たちオリエンタルランドの社員も細心の注意を払っていました。ほんの一例ですが、私が今も覚えているのは、当時の採用活動の方針です。開業当時、東京ディズニーランドに最も近い駅は、地下鉄東西線の浦安駅でした。
キャストの採用をするのであれば、当然、通勤の便が良いほうがいい。となれば、東西線に中吊りなどで募集広告を打つのが普通のやり方です。しかし、私たちは、それをしませんでした。アメリカのディズニーランドから来ていたカウンターパートでマーケティングのプロフェッショナル、ノーム・エルダーが許さなかったのです。(略)彼は私たちマーケティング担当に言いました。『人事部に伝えてほしい。お客さまは東西線に乗って、東京ディズニーランドにやって来られる。そのときに、この募集広告を見たらどう思うか。夢を売っている私たちが、自らその夢を壊してどうするのか』頭を殴られたような衝撃がありました」

 しかし、今では最寄りの路線である京葉線に、キャスト募集広告が大々的に展開されているほどだ。なりふりかまっていられない、ということなのか。
(文=松井克明/CFP)

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