昨年11月にファーストリテイリング傘下のユニクロと東レが戦略的パートナーシップを発表した際に、両社社長から「インダストリー5.0」「いや、もうインダストリー6.0だ」といった発言がなされた。おそらく、多くの方は混乱したのではないでしょうか。

そこで今回は、改めてIoTとインダストリー4.0、インダストリアル・インターネットについて解説したいと思います。

 IoT(Internet of Things)とは、「モノとインターネットの融合」を意味し、あらゆるモノ(機械等)にセンサーを組み込んでネットにつなぐことでネットワーク化することです。今、IoTが世界の産業、とりわけ製造業のビジネスモデルを劇的に変化させています。

 たとえば、工場の機械に組み込まれたセンサーからは、稼働時間、故障した部品や故障の予兆などの情報をリアルタイムに収集することができ、即時に対応することで生産性の向上が可能になります。ほかにも、電力・ガスのメーターは検針員がわざわざ訪問しなくても使用量データを自動的に収集蓄積することで、効率的な配分や価格設定が可能になってきています。

 これらの動きは、ドイツとアメリカにおいて起こりました。
ドイツ政府が製造業のイノベーション政策として主導する国家プロジェクトが「インダストリー4.0(第4次産業革命)」です。これは、第一次産業革命(18世紀の蒸気機関等による工場の機械化)、第二次産業革命(19世紀の電力活用による大量生産化)、第三次産業革命(20世紀のコンピューター制御による自動化)に続く革命だとする考え方です。

 そしてIoTは、先進国から労働コストの安い発展途上国への工場移転問題を解決するものでもあります。すなわち、スマートファクトリー(考える工場)と呼ばれる工場の効率化を行い、最終的には国全体の工場ラインをひとつの工場のように効率化することで、先進国においても低コストで高品質なモノの製造を可能にしようとするものです。

●変わる製造業のビジネスモデル

 一方、米国におけるIoTの取り組みで注目されているのは世界最大のコングロマリットであるゼネラル・エレクトリック(GE)のインダストリアル・インターネット(産業のインターネット)です。

 同社はこれを「産業機器とビッグデータと人々を結びつける、オープンでグローバルなネットワーク」であると定義しています。
機器をネットにつなげることで、さまざまなデータを収集し、このデータを解析することで顧客に価値を提供するという考え方です。

 たとえば、GEの航空機エンジンにセンサーをつけることで、故障の可能性がある場合には、飛行機が着陸した直後に検査とメンテナンスを行えるようにすることです。つまり、メーカーである同社はかつての「商品を売って終わり」というビジネスモデルではなく、「売ったあとも顧客の情報を得ることでさらに製品の改善を行い、顧客満足度を上げる」というモデルに転換しているのです。そのためにはIT技術が重要だとして、1000人以上のネット技術者を採用してシリコンバレーに研究所を設立しました。

 自動車の自動運転をめぐっては、OSプラットフォームの覇権をめぐって米グーグルや米アップル、さらにはトヨタ自動車などの自動車連合が凌ぎを削っている状況です。

 日本では建設機械大手コマツがいち早く、GPSやセンサーを建設機械のエンジンなどに搭載することでリアルタイムの情報を集めて、その位置情報や稼働状況、燃料残量に関する情報がわかる仕組みである「KOMTRAX」を構築しました。
今後、ますます製造業のビジネスモデルはITによって変化するでしょう。

 もはや製造業はITと一体化しつつあるのです。今後製造業のサービス化、IT化の流れは益々加速していくでしょう。そのためにはあらゆる経営者がITを学ぶ必要があるのです。

 最後に冒頭のユニクロと東レの社長発言に対する筆者の答えは、「それこそがインダストリー4.0」です。みなさんはどう思われますか。

(文=平野敦士カール/ビジネス・ブレークスルー大学教授、ネットストラテジー代表取締役社長)