信金業界が“暴挙”に出た。全国信用金庫協会(全信協)の次期会長候補として、多摩信金の佐藤浩二会長を選んだのだ。

佐藤氏は、暴力団組長の葬儀に出席し、監督官庁である金融庁からガバナンスとコンプライアンスに問題があると指摘されても、いまだに多摩信金会長、東京都信用金庫協会(東信協)会長に居座り続けている。

 4月27日、全信協は16年度第1回理事会を開催した。主要な議題は、次期会長候補者の決定とそれに伴う理事候補者の追加選出について。この席で、佐藤氏を会長に推薦することが全会一致で決定した。

 実は全信協理事会はいわゆる“儀式”を行う場であり、実際には前日の26日に行われた全信協会長の選考委員会ですべてが決定していた。選考委員会では、座長に御室健一郎副会長(浜松信用金庫理事長)が選任された。
御室座長の下で行われた選考委員会では、「これまで副会長として大前孝治会長(城北信用金庫会長)を補佐してこられ、金融庁の金融審議会委員などの経験が豊かな佐藤副会長が適任である」との意見が出された。さらに、「急な案件が生じた際にも、機動的な対応が可能な東京地区からの選出が望ましい」といった意見もあり、佐藤副会長を全会一致で次期会長候補者とすることが決定した。

 ただ「選考委員会の座長に選ばれた御室氏は、実は虎視眈眈と次期全信協会長の椅子を狙っていて、本人はやる気満々だった。しかし、体よく座長に祭り上げられてしまった。すべては、佐藤氏を次期会長候補者にするためのシナリオ通りだ」(信金業界有力者)という。

 実際、佐藤氏を次期会長候補として推薦したのは、全国に11地区ある信金の地区協会のうち、わずか東京、東北、中国の3地区でしかない。
一部で対抗馬と見られていた御室氏が早々に選考委員会座長に選任されたことで事実上、対抗馬がいなくなり、東京、東北、中国の3地区以外は積極的に佐藤氏を選んだわけではないが選任されたというのが実態だろう。その上、現会長の大前氏が、自らの後任には「東京地区から選出」との考えに固執していた向きがある。

●自浄機能がない信金業界

 しかし、佐藤氏といえば、東京都信用金庫協会の会長も務めていながら、暴力団組長の葬儀に出席していたことが発覚。金融庁が多摩信金にコンプライアンスやガバナンスに問題ありとの烙印を押し、1年を超える検査で改善を求めたが、十分な対応策は出てこなかった。

 さらに地元自治体から販売委託を受けていたプレミアム商品券を、販売前に職員が購入するなどの不正が発覚した。地域密着を掲げる信金として、あからさまに地域を裏切る行為に批判が渦巻いた。


 金融庁当局の思惑は、責任を取って佐藤氏が会長職を辞することにあった。特に協会の代表者を辞するのは当然と考えていた。しかし、佐藤氏はその地位に居続けた。多摩信金は2年も前に行われた金融庁検査で指摘のあったコンプライアンス面での改善策が、いまだに金融庁から了承を得られず、コンプライアンスに関する行政報告が続いている。

 そのような多摩信金の会長を務める佐藤氏を次期会長候補に選任する信金業界が、一般預金者や取引先から信頼を寄せられるとは思えない。金融庁のある幹部は、こう語る。


「呆れてものが言えない。金融庁としては業界団体の人事に口を挟むことはできないが、行政当局としては自浄機能がない信金業界に対する対応が厳しくなるのは致し方ないだろう」
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)