5月19日、厚生労働省千葉労働局は、違法な長時間労働を繰り返している企業として、棚卸し代行業「エイジス」を名指しした。昨年5月に長時間労働会社に対し行政指導の段階で名前を公表するとして定められた新基準が、初めて適用されたかたちだ。



 このエイジスとは、どんな会社なのか。今回、エイジスの大阪拠点で働く男性Aさんに話を聞くことができた。

「僕、アイドルファンなんですよ。コンサートやイベントの日には仕事が休めるよう、今の仕事に就きました。予定が決まっていればシフトの希望を出せるので、休みが取りやすいのです。同僚にもアイドルオタクは多くて、人気のあるイベントの日にはバイトがごそっと休んだりします。正直僕は、この仕事に対して“アイドルイベントに行きやすい部分”にしか魅力は感じないですけどね……」

 エイジスの仕事内容は、店舗の棚卸しの代行をはじめ、商品政策補助や店舗内作業の補助など、人材を派遣して顧客の仕事を手伝うというものだ。「仕事内容に興味があって働いているという人は聞いたことがない」(Aさん)という。

「あと、職場には、ギャンブルやアルコールにハマってる人が多いです。みんな手っ取り早く、ストレスを解消したいんじゃないですかね。がんばって働いても、そのお金が全部パチンコに消えていくというのは、正直馬鹿馬鹿しいと思いますけど。

 結婚は諦めてる人が多いと思います。
もし、結婚して子どもができても、残業をめちゃくちゃがんばるか、仕事変えるかしないと無理ですからね。

 ちなみに、労働者はゲームみたいに『SABCD』というランクで分けられてます。このランクによって、時給が変わるんですよ。半年働いてBかAになるのが普通で、Sになる人は超人級の人というイメージです。時給はSに上がってやっと1000円台というところですね」

 Aさんは5年働いてもBランクで、さらにランクを下げられた“ダメバイト”だと自嘲する。ちなみに棚卸し代行は、基本的には企業の決算時期だけが忙しいので、フルで仕事できるのは年に半分くらいしかないため、アルバイトだとがんばっても年収300万円が最大だという。

「SV(スーパーバイザー)という社内資格を取ったら、いわゆるバイトリーダーになれます。ある程度仕事ができて、社員に気に入られれば、入社半年くらいでも可能ですね。時給はアップするし残業も増えるので、がんばれば月収50万円に手が届きます。

 ただ、今回の件で残業が規制されるので、それを“改善”というのでしょうが、正直、残業がなくなれば必然的に年収も数百万円単位で減ることになりますから、やってられないですよ。転職したほうがいいのでしょうが、せっかく取ったSVの資格も社内だけでしか通じません。となれば、今さらほかの会社に行ったところで、相応の給料がもらえる保証もない」(同)

●あり得ないスケジュール

 では、仕事内容自体は、どんなものだったのだろうか。
世間で言われているように、本当にブラックだったのか。

「繁忙期は10連勤に加えて、昼夜のダブルヘッダーがあったりします。ニュースで話題になっていたのは高ランクの人で、平気で1日16~20時間拘束されます。休憩は2時間ごとに15分。飯やタバコですぐに終わりますね。ちなみにSV以外は、休憩時間は無給です。深夜でも横になれないので、働きながら寝落ちしてしまうこともしばしば。まあ棚卸し中に寝ても死にはしませんが、運転中は危険ですよね。

 一番厳しいのは移動です。8人乗りのミニバンにギュウギュウ詰めになって乗って、ノンストップで現地に向かいます。大阪から岡山、名古屋なんて遠距離の移動もありました。移動中は時給400円しか出ませんから、ホントにつらいですよ。


 そもそも、高速道路で100キロ以上出さないと、時間通り現地に着けないスケジュールを組まれているんですよ。みんな大体運転が荒くて、ガンガン飛ばします。その上、ドライバーは連日勤務で、疲労困憊。実際に死亡事故も起きてますよ。その際、会社からは『後部座席もちゃんとシートベルトするように』と注意があっただけでした。事故って死ぬのは、シートベルトをしていないお前らのせいだと言わんばかりでしたね(苦笑)」(同)

●社長からの「プレゼント」

 今月に入り、同社は今回の指摘を受けて、業務内容改善の方策を公表した。そのなかで、これまで実労働時間とみなされ時給計算されていたSVの移動手当については、6月1日より「移動手当」なるものとして支給されると記載されていた。

「まあ、どっからどう見てもブラック企業ですけど、昨年末に社長から社員へ心温まるプレゼントがあったんですよ。社長の直筆の手紙と、菓子と文具のセットですが、袋に入ったラムネ菓子には社長の顔写真がカラーでプリントしてあって(苦笑)。どこまで自己顕示欲が強いんだって、呆れるやら、気持ち悪くなるやら。みんな食べずに捨ててましたね」(同)

 彼は力ない笑顔で笑うと、夕方5時集合の現場があるのでと言って、帰っていった。

 後日Aさんと連絡を取ると、その日の仕事は5時間労働のはずだったが、急に応援に行かされ、朝の5時までの12時間労働になってしまったそうだ。
疲労の限界に達して、錯乱。自殺未遂をした後、現在は心の病院に通っている。ちなみに現在、エイジス内では従業員に対して、メディアの取材には応じないように指示が出ているという。
(文=村田らむ)

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