「週刊文春」(文藝春秋)と「週刊新潮」(新潮社)でスクープされたラムスコーポレーション(東京・港区愛宕2-5-1)と、その船舶を保有する関連会社ユナイテッドオーシャン・グループ(以下、オーシャンG)の倒産劇に絡む闇に金融界が揺れている。同グループが破綻したのは昨年11月、負債総額1400億円という同年最大の大型倒産だった。

その舞台裏がなぜここにきて暴露されたのか、他のメガバンク関係者は一様に首をひねる。

 オーシャンGは元駐日インド大使を父に持つヴィパン・クマール・シャルマ氏が1995年に興した船舶会社で、シンガポールやパナマなどのSPC(特別目的会社)を通じ船舶約40隻を保有し、主だった傭船先は日本郵船という優良企業だった。そのオーシャンGにピーク時、700億円を超える資金を融資していたのが三菱東京UFJ銀行だった。

「文春」の報道によれば、オーシャンGの担当店であった新橋支社長など複数の行員がシャルマ氏にたかり、過剰な接待を半ば強要していたことが明らかになっている。また、融資の調印式には小山田隆副頭取(現・頭取)が出席するほどの親密先であった。
 
 そのオーシャンGに対し三菱UFJ銀行は昨年10月、突然「傭船契約が偽造されていたことが判明した」と通知し、債権の回収に乗り出すとともに、翌月には会社更生法適用申請に踏み切った。


 この三菱UFJ銀行の一方的な破綻申請に対し、シャルマ氏は「融資は銀行から申し出たもので、傭船期間を10年から20年に書き換えたり、傭船料を変動から固定にしたのも、そうしないと稟議が通らないと銀行の担当者から頼まれ、言われた通りにやったもの」と反論している。

 また、オーシャンGは、芸能界やスポーツ界とも深い関係にあった。「新潮」によれば、グループの中核会社ラムス社の取締役には、俳優の松方弘樹氏やプロゴルファーの丸山茂樹氏、羽川豊氏などの著名人が名前を連ねていた。いずれも広告塔として利用されたと見られている。

 シャルマ氏は倒産により信用を失い、精神的損害を受けたとして三菱UFJ銀行に対し10億円の慰謝料を請求する民事訴訟を起こしている。7月12日に初公判が開かれたが、問題となる「傭船契約の偽造」の経緯については両者の主張は対立している。


●トップ人事との関係

 この裁判の進展に呼応するように舞台裏が暴露されたわけだが、問題の根はもっと深いとも見られている。その背景についてメガバンク元役員は、「三菱UFJ銀行のトップ人事との関係があるのではないか」と指摘する。

 三菱UFJ銀行では今年初めに平野信行頭取が会長に退き、三菱UFJフィナンシャル・グループ社長に専念する一方、後任に小山田副頭取が昇格することが発表された。三菱UFJ関係者によれば、オーシャンGの案件は、昨年9月中旬に「頭取直轄銘柄」となっていたという。小山田副頭取が次期頭取に内定する直前のタイミングに当たる。同行の手のひら返しによる倒産劇と、銀行のトップ人事が微妙にオーバーラップするのは偶然か。


 また、別の三菱UFJ関係者によると、今、同グループ内では旧UFJ銀行出身者が支社長ポストを独占する、いわゆる「緑化作戦」が進行しているという。旧UFJ銀行のバンクカラーが緑であったことから、こう隠語されるものだが、「関連会社の天下り先の多くでも緑化が進んでいる」(同行関係筋)というから穏やかではない。

「ゲリラ的な動きに長けた旧UFJの行員がいつの間にか、法人を専門に担当する支社や関連会社を緑に塗りつくしつつある」(関係者)

 これに危機感を強めた旧三菱銀行の人事部門では水面下で、緑を赤に塗り替える「赤化作戦」を練っているという。赤は旧三菱のバンクカラーで、現銀行にも継承されている。

 こうした銀行グループ内での派閥争いが、オーシャンGの破綻劇と関連するのか、金融界は固唾を呑んで見守っている。
(文=編集部)