2015年12月21日、住宅設備で最大手のLIXILグループの藤森義明社長兼CEO(64歳)は、16年6月下旬の株主総会での承認を経て、代表権のない会長職に退くとの急転直下の方針を発表した。
社内外を驚かせた退任会見は──英国に活動の拠点を置いていたとはいえ──瀬戸氏が不在のまま、藤森氏が一人で「(中国の孫会社における粉飾決算に起因して約660億円の巨額損失を出すことになった)ジョウユウ問題とは全く関係がない」と強調する一方で、約5年間の在任期間中に自らが主導してきた“グローバル化”などの数々の経営改革の成果を述べて自己正当化に終始するという、どこか不可解なものだった。
その直後、藤森氏をはじめとする主な経営幹部は、そのまま海外での長期休暇に入ってしまった。
後任の瀬戸氏は、16年1月1日より代表権を持つCOOに暫定的に就任しており、オフィシャルには年末年始の間隙を縫って新体制への移行を済ませたことになる。
シックスシグマは順調?だが、それで世間や株主は納得するのであろうか。
振り返ってみれば、15年3月末の時点で、ジョウユウ問題の震源地となった独グローエ・グループのデイビッド・ヘインズCEOは、LIXILウォーターテクノロジーカンパニーのCEOに昇格し、全世界の水回り事業を統括する立場になった。後に、ジョウユウ問題が発覚し、結果的に巨額損失を出す事態に至っても、ヘインズ氏の職掌は何も変わっていない。
ジョウユウ問題は、15年11月16日に経過報告(事実上の終結宣言)が出されたが、「ジョウユウの経営者である蔡建設・蔡吉林氏に対する訴訟手続きに踏み切ったなどの経過説明があっただけで、今も詳細な調査報告書の類いは公開されていない」(証券アナリスト)。
また、藤森氏の出身母体である米GEが導入したことで世界的に流行したシックスシグマ(全社横断的な生産性改善活動)は、日本のLIXILでは定着しているが、見掛けほどにはグローバルに展開されていない。「実は、グローエのヘインズCEOは『あれは米国企業に特有のやり方であって、欧州企業には向かない』とシックスシグマの導入に積極的でない」(社内の関係者)など、ガバナンス上の不協和音も漏れ伝わってくる。
やはり、燎原の火のごとく広がる“藤森氏の更迭説”を消し止めるには、シンガポールに隠棲するオーナーの潮田洋一郎取締役会議長が大局観のある展望を自ら語る必要がある。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)