「この5年間、人間ドックを受けていなかったんですよ。たまたまテレビ番組の企画で健康診断を受けて、MRI(磁気共鳴式の画像診断)を受けたのが4月6日のこと。
こう一気に語るのは、歌手の麻倉未稀(56)。
「実は昨年暮れ、自分で胸を触ったときに少し違和感があったんです。でも私がただ軽く触っていただけだったり、ストレッチなどの運動もしていたりしたので、しこりだなんて思わずに、この胸のひっかかりは筋肉かなぁと、やり過ごしていました。特に去年は自分の歌手生活35周年で記念コンサートなどの準備もあったし、大動脈瘤で大手術をした87歳の父の看病もあり、健康診断を受けに行く時間がなかなか作れなくて……」
告知を受けたときの心境を麻倉はこう語る。
「MRIの画像を見ると自分の胸を残してくださいとは言えないくらいがんが大きくて。
予定では左胸の全摘出後に乳房再建手術をして、ホルモン治療を行う方針だ。歌さえあれば、と明るく語った麻倉だが、現実にはがん告知直後、深い苦悩に襲われていた。
「結婚して10年ですが、夫の前でもずっと元気で明るくしていましたしね。泣いたこともなかったんですよ。
泣いた後、こんな夫婦のやり取りがあった。
「すみません。大泣きしたらスッキリしました」
「よかったです」
夫もまた辛さから解放されたのか、再び家庭内にも以前と同じ日常が戻ってきたという。6月の手術と、その後の再起に向けて支えとなっているのが、家族の存在だ。
「夫は、これまで何も言わなかったのが、最近は、帰宅が夜の11時くらいになると、『遅いね』と。実は彼も3年前に父と同じ大動脈瘤の手術をして体調が本調子ではないんですが、私の体を気遣ってくれるようになりました」
乳がん告知後「歌さえあれば、胸はなくなってもいい」と思った麻倉だが、実際、「もう一度歌うんだ」という執念が、がんと闘う大きな支えになっている。
「乳がんになって、告知を受け入れて……。それもいまはいい転機だと思えるようになりました。私、『ヒーロー』みたいな人を勇気づける曲を歌っているのに、まず自分がしっかりしなきゃと思うんですね。若々しくて元気な歌もいいですが、病気をきっかけにして落ち着いた大人の歌も歌えるような、いい年の取り方をしたい。
手術後すぐの7月14日には、ライブイベントに出演することもすでに決まっている。
「打ち込めるものがあるということは、ストレスを溜めずに前向きにがんと闘うためにも必要なことだと思います。だから、これからも私は歌い続けたい」
ライブではきっと、より魅力を増した歌声を聞かせてくれるはずだ。