主人公は2019年に、45歳になる、未婚かつ子供なしのフリーター女性・前島トリコ。
「売れているものを見下し、アンチメジャーを認め、『自分は人と違う』というアリバイのために、センスの良さそうな音楽を聴く。
彼女は徹頭徹尾、非合理な現実、自らの人生に愛想を尽かし、大量の睡眠薬を飲んで自殺を試みる。しかし、死んだはずの彼女が再び目覚めたのは、自分の人生のなかで一番幸せだった15歳からの2年間がまさにはじまろうとする時期、1989年。
世はバブルが弾ける前、街は微熱に包まれ、テレビ画面には"平成"と書かれた紙を持った小渕恵三の姿。30年の時をタイムスリップしたことにしばし戸惑いながらも、トリコはある決意を胸に秘め、行動をはじめる......。
タイムスリップする直前、トリコが薄れゆく意識のなかで最期に想ったのは、否応にもフリッパーズ・ギターを彷彿とさせる"ドルフィン・ソング"という名のバンド。現メンバーは小山田圭吾ならぬ"島本田恋"と、小沢健二ならぬ"三沢夢二"。
だが2019年の時点の歴史では、1991年に三沢夢二が島本田恋を殺害。自首した三沢も、殺害動機を語らぬまま死刑となり、真相は謎のままに。
フリッパーズ・ギター、そしてソロになってからの小沢健二さんの曲名やその歌詞が、タイトルはもとより文中の節々に大量に散りばめられているだけでなく、当時の二人が語った言葉やエピソードの数々も、小説のなかの島本田と三沢のセリフをはじめとして随所に引用されています。
また、ドルフィン・ソングに関わる登場人物たちも、フリッパーズ・ギターに関係した実在の人物たちを思わせ、さらにはドルフィン・ソングの二人が好きだという楽曲やアーティストも、当時小山田さんや小沢さんが愛聴していたものであるといった徹底ぶり。
「ドルフィン・ソングはファッション・リーダーだった。アルバムごとに音楽性がガラッと変わるのと同時に、服装もベレー帽とボーダーのシャツから、ゴルフ帽とペインターパンツに切り替わった。(中略)ふたりの音楽はオレンジ・ジュースやアズテック・カメラ、パステルズやモノクローム・セットとったイギリスのネオアコやギターポップに影響を受けていた、というよりパクりまくっていた。歌詞はアーヴィングやレイモンド・カーヴァー、サリンジャーにデレク・ハートフィールドといった現代アメリカ文学からの膨大な引用で成立していた」(本書より)
過去の自分自身やかつての交際相手と遭遇するなかで生まれる、なつかしい気持ちと思い出す痛み。果たしてトリコは、歴史を変え、島本田と三沢の死を防ぐことができるのでしょうか。
樋口毅宏さんによる『ドルフィン・ソングを救え!』。表紙には、フリッパーズ・ギターに関係の深い、岡崎京子さんによるイラストが描かれています。
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