■繰上げ受給で特に注意したいこと
年金の繰上げ受給は、65歳からもらえる年金の受給開始を早めることで、1カ月当たり0.4%の受給額が減っていく仕組みです(昭和37年4月1日以前生まれの方は減額率0.5%)。この減額された年金額は一生涯続くため、繰上げ受給には慎重な判断が必要であるということはよく知られています。
しかし、特に注意すべきなのは、老齢年金を繰上げ受給すると事後重症による障害年金請求(※)が原則できなくなってしまう点です。
※当初は障害等級に該当しなかったものの、その後症状が悪化した場合に行う請求
例えば、さまざまな理由で年金の納付期間が25年だった人がいるとします。
その人が60歳で繰上げ受給を選択したあとに、不慮の事故などで障害年金の「障害等級1級」に認定されるようなケースを考えてみましょう。
2026年5月時点では障害等級1級の年金支給額は、基礎年金満額の1.25倍(およそ106万円、月9万円程度の年金)です。しかし、すでに繰上げ受給をしている場合、障害年金を選ぶことはできません。もらえるのは、あくまで自分の納付実績に基づいた老齢年金だけです。
今回のケースでは、もともと25年しか納付していないため、もらえる老齢基礎年金は満額の約40分の25(※約84万円の満額から加入期間分に減額)となり、そこからさらに、60歳まで前倒しした分の減額率(24%減)が適用されます。
結果として、受け取れる年金が「年間でおよそ40万~50万円(月3万~4万円)」という、非常に厳しい金額になってしまいます。
■本当に繰上げるかは慎重に判断を
このように「今は元気だから大丈夫」と思って繰上げ受給を選んだあと、重い障害状態になった場合でも、原則として障害年金を新たに請求することはできません(老齢年金を繰上げ受給する前の時点で、すでに障害認定日の要件を満たしていた場合などは例外)。
もちろん、繰上げ受給を選ぶことは悪いことではありませんが、「目先の生活費がちょっと足りないから」という理由だけで安易に前倒しを選ぶのは、万が一のときの大きな保険を自ら捨ててしまうことになりかねません。
文:酒井 富士子(経済ジャーナリスト)
「日経ウーマン」「日経マネー」副編集長歴任後、リクルートに転職し、定年あるじゃん、あるじゃん投資BOOK等の立ち上げ・編集に関わる。2006年にお金専門の制作プロダクション「回遊舎」を創業。「ポイ活」の専門家としても情報発信を行う。
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