■Jリーグ選手の平均引退年齢は26歳
日本プロサッカー選手会(JPFA)のデータ(2022年)によると、Jリーグ選手の平均引退年齢は26.0歳。ほとんどの選手は20代で次なる道に進むことを決断しなければならないわけだ。
その際に迷うのは、その競技に関わる仕事に就くべきか、競技には関係のない別の道を目指すべきかである。
一見、これはアスリートだけの特別な悩みに思えるかもしれない。だが「これまで培ってきたものを仕事にするか、全く別の道を選ぶか」という選択は、多くの人がキャリアのどこかで直面するものだ。トップ選手はそれを20代という早さで、しかも極端な形で経験する。だからこそ、その決断の中には、私たちが自分のキャリアを考えるうえでの学びがある。
今回は自身もボクシングのプロライセンス保持者で、JOC(日本オリンピック委員会)キャリアアカデミーの講師としてトップアスリートのセカンドキャリア支援経験のある筆者が、プロスポーツ選手の引退後のキャリアの可能性について解説する。
■競技に関わる仕事に就き、自身の競技経験を活かす
ある競技を追求してきたアスリートにとって、その競技と一生関わり続けたいというのは1つの大きな願いだろう。そのため引退後もその競技に関わる職業に就くことを目指すのは自然な流れと言える。
NPB(日本野球機構)が2025年に戦略外もしくは現役引退をした選手(169人)の進路調査をした結果、コーチや球団職員などを含め野球関係の道に進んだ人は全体の85%、一般企業への就職や自営業など野球関係以外の道に進んだ人は10%だった(未定・不明者5%)。このデータからは野球に関しては引退後もその競技に関連する職業に就く選手が多いようだ。
競技経験を活かすという目的においては、監督やコーチといった「指導者」を目指すのが王道のように思われる。しかし監督やコーチも選手と同様、所属チームとの「契約期間」が定められており、成果を出せなければ職を失うことになる厳しい世界だ。
筆者が以前所属していたボクシングジムでも、プロボクサー引退後、トレーナーの道に進む選手もいた。自身の競技経験を活かしてトレーナーとして選手の育成に携われるというやりがいがある一方、一般企業と比べると待遇は決していいわけではないので、結婚などを機にトレーナーを引退する人もいた。
逆にトレーナーというボクシングを直接指導する立場ではないが、引退後に柔道整復師の資格を取得し、接骨院を開業して「施術」を通じてボクサーの体のコンディションを支える仕事をしている人もいる。
その競技に関わる仕事に就くことができれば、継続して競技経験を直接的に活かすことができるが、雇用の安定性や競技との関わり方などは職業によっても異なるので、幅広い視点を持って選んでいく必要がある。
■競技を離れても、培った力は通用する
プロ引退後、あえてその競技とは全く関連のない仕事に挑戦することも、もう1つの道である。
よく有名スポーツ選手が引退後に飲食店を開業することがあるが、知名度がある選手であればそれを活かす道として有効かもしれないが、プロ生活2~3年の若い選手であれば難しいかもしれない。
多くは一般企業への就職を目指すことになるのだろう。名刺交換など社会人として一般的なルールも分からない状態での就職は苦労も多いかもしれないが、スポーツ経験者がビジネスの世界でも成功することはよくあることだ。
サッカーでは元日本代表の鈴木啓太氏が腸内細菌の研究・活用をする会社を経営するなど、あえて競技とは離れた事業で成功している。
また、新卒の就職活動で最も人気のある総合商社も、採用される多くの学生はラグビーやアメフトといった体育会出身者が多い。
プロという夢をかなえた選手が、競技と別の道を目指すのはハードルがあるかもしれないが、スポーツを通じて得られた力はビジネスでも通用するはずだ。
■「競技」と「お金」を切り離すという発想
ここまで見てきたように、引退後のアスリートには「競技に関わり続ける道」と「別の道に進む道」の2つがある。だが、この2つは実は対立するものではない。
キャリア形成でまず欠かせないのは「生活に必要な分のお金を稼ぐこと」だ。それが競技関連の仕事で実現できるなら、そのまま続ければいい。しかし稼げる見込みが薄いのに競技に固執する必要はないし、別の道を選んだからといって競技との関わりを断つ必要もない。
現役時代は、競技そのものが収入を得る手段でもある。そのため引退後も、どうしても「その競技で稼げるかどうか」を基準に将来を考えてしまいがちだ。稼げないなら競技から離れるしかない、と。だが「競技」と「お金」を切り離して考える、いわば「アマチュアシフト」ができると、選択肢はぐっと広がる。
一般企業で安定した収入を得ながら、休日は地域の社会人チームや子ども向けスクールで指導する。
そしてこの発想は、何もアスリートだけのものではない。「好きなこと」と「お金を稼ぐこと」は必ずしも一致しなくていい。転職や定年後の再スタートなど、キャリアの転機に立つ人なら誰にでも通じるヒントではないだろうか。
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