貧困が招いた悪夢だという者も多い、パプアニューギニアでの魔女狩り。あまりの事件の多さに、2009年頃からメディアでも度々取り上げられるようになった。
今回は、その中でも特に異質で悲劇的だった2012年の事件を紹介しよう。
2012年7月、パプアニューギニアのジャングル奥地で7人の魔術師が惨殺されるという事件が起きた。地元警察によれば「人喰いカルト集団」によって身体の一部をむさぼり喰われていたという。また、7人のうち4人の遺体の残骸は未だ回収されておらず、「恐らく、彼らが全部食べつくしてしまったのだろう」と推測されており、魔術師の脳を生のまま食べ、性器はスープにして消化したと伝えられている。
ではなぜこのような事件が起きたのか? それは「人喰いカルト集団」にとって、魔術師の臓器は、超自然的なパワーと、強靭な肉体を得ることができると信じられているからである。
パプアニューギニアの全国紙によると、この加害者29人(内、女性8人、13歳の少年1人を含む)が所属するのは、全体で約1,000人のメンバーがいる人喰いカルト集団であった。彼らは、パプアニューギニア北東内陸部の村落に住み、メンバーのほとんどが、人肉(ロングピッグ="長い豚"と呼ばれている)を食べたことがあると推定されている。
しかし、警察が「こんな事件は、人生で初めてだ」とAP通信に伝えたように、この人喰い集団の存在は長らく確認されていなかった。ジャングル奥地での人喰風習は、噂の域を出ていなかったのだ。
ではなぜ、この事件は明るみに出たのだろうか? それは、カルト集団による「悪徳魔術師成敗」の動きが活発化したことに起因する。
地元の政治活動家が「これらのカルト集団は、元々は貧しい村人から金品を搾り取る欲深い魔術師を取り締まるための自警団のようなものだった」と語っているように、本来は村人を守る集団として存在していたのだという。しかし、次第に特別なパワーの虜となり、魔術師狩りへと変化し、こうした事件を引き起こしたというのだ。
北東沿岸部マダンから内陸に入ったタンギ地区のカルトリーダーはAFPの取材に対して「魔術師に死因の究明や悪霊払いをしてもらうには、現金で1,000キナ(475米ドル)を用意しなければなりません。そのうえ、豚や米も要求され、魔術師によっては『身体で払え』という輩もいます。これは我々の伝統的倫理観に反している。他人の妻や10代の娘に肉体関係を迫るというのは人の道に外れていることでしょう」と糾弾している。
2014年の現在でも、パプアニューギニアではサングマ(魔術)と暴力は深く関わりあい、深刻な事態が続いている。赤ん坊や子供が亡くなると魔女のせいだと無実の女性をナタで切りつけリンチしたり、ガソリンを浴びせて生きたまま焼き殺すといった事件、または今回のような「悪徳魔術師成敗」による事件は根絶されていない。このような事件の背景には、住民の無知に加え、社会不安や経済格差、やっかみ、嫉妬や土地を巡る争いなども原因といわれている。また、告発された人を庇おうものなら、今度はその庇った人や家族が攻撃されるという悪循環も浮かび上がってくる。国連人権高等弁務官事務所によるパプアニューギニア政府に働きかけによって「魔術法」の廃止とともに死刑制度が復活。黒魔術を使ったことを理由にした処刑行為が通常の殺人と同様に裁かれることになった。
(文=佐藤ケイ)