電子書籍版『AL GORE OUR CHOICE』が、すごい!
紙の本をそのまま電子化して「電子書籍です」とかほざいて、それで「売れない」と真顔で嘆いてる人に(もちろんそうじゃない人も)、ぜひ体験してほしいグッとくる電書だ。

【電書の構造がすごい!】
各ページへ辿り着く構造が従来のものとは違うにもかかわらず、しっくりなじむ作り。

章とページをイッキに移動できる構成になっている。
画面下に帯のように各ページのサムネイルを表示。その上部は各章の扉(チャプタータイトルとそれを象徴する写真)だ
実際に章扉をスライドさせてみる。すると次の章に移動する。
下のページサムネイルをスライドさせればページ単位で移動することができる。

そう、画面を見てユーザーがこうすればいいのかなと想像して、それを実際にやってみると、ユーザーの想像通りの反応を返す。
なんでもない画面だ。だから、すごい。
「なんでもない」と思わせることがすごい。ユーザーインターフェイスは、いかに「なんでもない」とユーザーに感じてもらえるか、そこが肝心。
「なんでもない」と思わせて、なんでもなくやりたいことが実現できるように作る。
これは良いインターフェイスの最大のポイントだ。
もうひとつの重要な点は、これが目次であるということ、そして紙の目次とは構成自体が違っているということだ。
パラパラとめくることができる紙の利点は、まだ電書では再現できない。それを越えるために工夫をすべきであり、そのひとつのポイントが「目次をどう構成するのか?」だろう。
章の移動と章内のページ移動がひとつの画面で成立していて、ダイレクトに各ページへ飛べる仕組みは、本の構造を新しくするチャレンジだ。

【基本UIがすごい】
基本のUI(ユーザーインターフェイス)も、いい。

読みたいページサムネイルをピンチアウトするとページが拡大して、そのページを読むことができる。ピンチインすると、また目次画面にもどる。
もちろんそのままページをスワイプさせることで前後のページに移動。何かの指定はタップすればOK。
視覚的に折り畳みや拡大のアニメーションを伴って動作することも、わかりやすさを補強する
この基本原則(ピンチアウト/ピンチインで拡大縮小、タップで指定、スワイプでページの前後移動)は、いつでもどこでも変わらないのも素晴らしい。

安心して読書を楽しむためには、基本操作原則が一貫していることが必要だ。

【写真・グラフ・図解もすごい】
写真も豊富だし、見せ方の工夫も多彩だ。
たとえば、本文中に組み込まれた写真。ピンチアウトすると、折り込まれていた部分が開いて、全画面の写真になる。再度ピンチインすると折り込まれる。
小さな画面が全画面に拡大する場合もある。
写真によっては、拡大したあとにズームアウトして、それまでより広い範囲を見せるといった工夫もある。
写真の下には地球マークがついていて、それをタッチするとGoogleMapの世界地図になる。風景の場所がどこなのかわかる仕組みだ。
プレイボタンがついている写真は、全画面になるとムービーが流れる。ピンチインすると本文の中に収まるが、すごいのは、静止画にもどるのではなくて、そのまま動画として流れているところだ。

そして、グラフ。
これが未来!
たとえば、それぞれの汚染物質が地球温暖化に与える影響を示したグラフを見てみよう。
Carbon Dioxideが43%、Methaneが27%、Black Carbonが12%……を示す棒グラフ。
Carbon Dioxide(二酸化炭素)にタッチすると、43%を示していた棒が、細く分かれる。Electricity and Heat 38%、Manufacturing and Construction16% Transportation16%…と何が原因で二酸化炭素が排出されるかを示す詳細グラフに変わるのだ
もうひとつグラフを見てみよう。
各国の風力発電容量のグラフは、設備容量、発電量、一人当たりの電力、といったアイコンをタッチすることで、グラフ内容が変わる。しかも、変わるときにガラっと書き換えるのではなくて、棒が伸び縮みしたあとに、順位を入れ替えるといったアニメーションを経て変わるので、各国の状況がそこからも読みとれるのだ。
こういった細やかな工夫で、見るグラフではなく読みとるグラフとして活用できるようになっている。
紙ならばいくつものグラフにしなければならないモノをひとつに集約している。集約していることで、読者の理解が拡がる仕組みになっている。

アニメーションとインタラクションは、図解やグラフと相性がいい。複数のグラフを、それぞれのグラフの相関をも含んで、ひとつのグラフに組み込むことができる。
図解もそうだ。複雑な、何十ページにもわたって展開しなければならない内容を折り込んでひとつの図解にできる。ページをめくるという概念のない電書ができるはずだ(つくりたい!)。

こういったさまざまな工夫が、スムーズに行われるので読み心地がいい。そう、いくら工夫されたUIでも、動作がモタモタしていては意味がない。前後ページを先読みしているのだろう、すぐに次ページが表示される。
良質なユーザーインターフェイスは、その「すごさ」にユーザーが気づかないほど自然に作られる。
デザイナーは、元AppleのグラフィックデザイナーMike Matas。
いかす!
iPad版、iPhone版『AL GORE OUR CHOICE』が発売中。

『Wired Magazine』『TIME Magazine』などの電子書籍雑誌も、デジタルならではの見せ方にチャレンジしている。
そろそろ電子書籍もしっかり電子書籍として楽しめるものがどんどん出てきそうな気配で楽しみだ(っても、どれもこれも英語なのが残念でならない。日本語がんばれ!)

あ。UIのことばかり書いて、肝心の内容について紹介してなかった。
紙の本『私たちの選択』をベースにして電子書籍版アレンジが行われている。温暖化を解決しようという(内容に関しては賛否両論を巻き起こしているが)議論が展開されている。
っても英語なのでちゃんと読めてない。いや、ほんと日本語がんばれ(いや俺が英語も読めるようにがんばれよッ)!
(米光一成)