今週の口癖はこれだ!
かじいたかし『僕の妹は漢字が読める』を読んじゃったせいで、自然と日に三回は言ってるな。
「理想のリーダーのイメージって何ですか?」
「おぱんちゅ きらり☆」
来週の大学の授業も、第一声目は「おぱんちゅ きらり☆」でいきたいと思う(無理)。
社会的生活を崩壊させかねぬほどに我が脳に多大な影響を与える非正当派文学『僕の妹は漢字が読める』は、第5回ノベルジャパン大賞銀賞受賞作品。
「問題作は、大賞を受賞せず」の法則通り大賞じゃなくて銀賞。
大賞はね王道なヤツが取るんですよ(っても大賞受賞作『オレと彼女の絶対領域』は読んでないんだけどな。ストーリー紹介読むと王道っぽいっす!)。
でね、「おもしろすぎるし、エッジとがりすぎるし、邪道すぎるでしょ!」っつーのが、銀賞とか特別賞とかとるってのがライトノベル界の影の七大法則のうちのひとつ。
法則通りっ。
おぱんちゅ きらり☆
『僕の妹は漢字が読める』は、設定のぶっとばしっぷりが半端ない。
萌えが支配している未来世界。
なにしろ総理大臣は、二次元美少女が務めている。国民の実妹という設定のニャモちゃんが七代めの二次元総理だ。
“僕たちがふだん使う現代文では漢字を一切使わない。漢字は近代文―十九世紀後半から二十一世紀後半まで使用された―を最後に、役目を終えた”
という時代なのだ。
主人公のイモセ・ギンと義妹のクロハのふたりが正当派文学の大作家オオダイラ先生に会いにいくところから物語は始まる。
電車。妹は、携帯小説全集なんか読んでる。漢字いっぱい。
“相変わらず難しそうなの読んでるなあ”ですよ。
“漢字がたくさん使われている昔の小説”ですよ。
そんな妹と噛み合わぬ文学論議を交わしながら、
“「クロハ、お前は頭がいい。だけど、文学を理解する心はゼロだ。正当派といったら無意味な脱衣シーンがあってこそだろ。野球拳は脱衣シーンを書くための辻褄あわせだよ」
「斜めに読んでも、横に読んでも、どこをどうどう読んでも辻褄が合ってないわよね」
「細かいことを気にしすぎだ。野球拳をして服を脱ぐことが重要なんだよ。正当派文学とはそういうものなんだ!」”
オオダイラ先生のところへ到着。
またこの大作家先生がぶっとんでて、あれやこれやあって、白いパンツを取り出して問うのだ。
「これは何だと思うかね?」
「パンツです」と答えると、オオダイラ先生はおっしゃる。
“「その通りだ。ふたりは事実を述べた。説明をした、ということだ。しかし、小説は説明だけではな面白みがない。小説は描写をしなくてはならない」
「描写、ですか?」
「ああ。パンツを見たままパンツとは書かない。ぐっとくる表現をするんだ。わたくしだったら、白い小宇宙と書くね」”
嗚呼。
オオダイラ先生のありがたい言葉を、もうひとつ引用しよう。
“パンツにあらずんば文学にあらず”
!!!
まあ、そういう小説です(爆)。
主人公イモセ・ギンは、オオダイラ先生の未発表作品を読む。それはこんな小説だ。
“でたひと→きよし
きよし「おくれちゃうにょ」
どうがサイトみてたら ねぼすけ←だめっこ
いきなりちこくは やばっ
こうえんぬけたら
おなのことごっつん☆
きよし「うあっ」
おなのこ「みゃあっ」
わああ でんぐりがえっておぱんちゅ きらり☆
きらっ きらっ
きらり☆
おぱんちゅ→おそらいろ
きよしっこ てれっこ”
まだ続くんだが、もっと読みたい人は(というか、第一章が試し読みできるのでぜひ)公式サイトを読むがよろしいよ! さっき引用した正当派文学『きらりん! おぱんちゅ おそらいろ』の近代文学バージョン(漢字いっぱい)も読めるよ!
日本オワタ的ディストピア(もしかしてユートピア)な妄想炸裂であり、パンチラ必須が文学の王道になってる未来世界からのバック・トゥ・ザ・フューチャーな展開に怒濤突入、後半も大萌えエンタテインメントであります。
ツンデレ妹のクロハ、無邪気な小学生妹ミル、さらに正当派文学大作家オオダイラ先生も何故か途中から美少女に変化、平成にタイムスリップした先には初恋の美少女もいるよっ、ってもはや「ご都合主義」とか「妄想がすぎる」という言葉を超越した勢いで美少女まみれ。
それをタイムスリップ的展開でぐいっとまとめてポーンと放り出すオープンなエンディングに転がり込む力量は、ぐちぐちと批評とかするヤツ氏ね的なメッセージも(勝手に)受け取っちゃうよーきらり☆な、エンタメ万歳、未来のライトノベルというかライトノベルの果てというか。
もうオワタな、いったんしゅーりょーってことでいいんじゃないかな。やりなおそうよ、おれたち。
というわけで、もし『僕の妹は漢字が読める』を読んで、暴走コミカル萌え展開に目覚めた人は、おかゆまさき『撲殺天使ドクロちゃん』ルートを、第一章の歪み未来から現実を照射する改変歴史思弁モノにしびれた人は筒井康隆『美藝公』ルートを、素敵なバック・トゥ・ザ・フューチャーっぷりにしびれた人は(もちろん『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を観て)ケン・グリムウッド『リプレイ』ルートを、ウクロニー/虚歴史(←言葉の意味は良く知らないよ! 知りたい人は『S-Fマガジン2011年7月号』の藤元登四郎「『高い城の男』―ウクロニーと「易経」」を読んでね☆)的な構造に魅了された人は、フィリップ K.ディック『高い城の男』ルートを。そしてもちろん作者かじいたかしの新刊を待ちわびるルートも心に秘めて! 正当派文学をみんなで支えていきましょう。
ぼくは、クロハ(←黒ストッキング義妹)ルートを選んで、おぱんちゅ きらり☆ でいきまーす!←だめっこ。
(米光一成)