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日本の食卓からバナナが消える日『いのちドラマチック』

2011年10月18日 11時00分 ライター情報:近藤正高

『いのちドラマチック』第1集/福岡伸一・監修、NHK『いのちドラマチック』制作班・編/木楽舎
NHK・BSプレミアムで放映中の同名番組の初の書籍化(2011年6月刊)。第1集では、「ヒトを魅了する美しきいのち」としてニシキゴイ、ラン、アサガオが、「ヒトの食を支えるいのち」としてミツバチ、トマト、ホワイトレグホン(ニワトリ)、バナナが、「ヒトに紡がれるいのち」としてカイコ、ブルドッグ、アグー豚、ソメイヨシノがとりあげられている。全頁オールカラーで豊富な写真や注釈に加え、各回ごとに福岡伸一によるコラムもついていて大変わかりやすい。巻末には番組出演者である劇団ひとりと福岡との対談も収録。

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一年中店頭にならんでいる、日本ではポピュラーな果物のひとつであるバナナ。そのバナナが絶滅の危機に瀕していることをご存知だろうか。そんなバナナ! と思うかもしれない。けれども、バナナはいつ絶滅してもおかしくない運命にある。いわば爆弾を抱えているわけだが、それはもとはといえば人間が仕掛けたものだった。以下、NHK・BSプレミアムの番組を書籍化した『いのちドラマチック』第1集から参照する。

ぼくらはバナナに種がないことを当たり前と思っているが、野生のバナナにはちゃんと種がある。現在商品として流通しているバナナは、突然変異で生まれた種なしバナナを、このほうが食べやすいということで人為的に増やしたものなのだ。種なしバナナは株分けによって増える。バナナの根を掘り起こすと、ひとつの株から何本ものバナナが株状になっており、これを株ごとに切り取って増やしている。

株分けによって増やされるバナナは、同じタイプの遺伝子を持ついわばクローンだ。動物のクローンをつくることは技術的に難しいが(他者の個体を拒絶する免疫システムを持つため)、植物では容易にできる。だが、ここに落とし穴があった。そのことがもっとも顕著に現れたのが、「グロス・ミシェル」というバナナの品種だ。グロス・ミシェルは、とろけるように甘く舌触りもクリーミーであることから、アメリカなどで飛ぶように売れたという。中米のホンジュラスはその生産で経済発展をとげたほどだった。だが、1950年代、土壌菌を原因とする「パナマ病」という病気がホンジュラスの大農園を襲い、グロス・ミシェルは全滅する。これについて生物学者の福岡伸一は、前出の本のなかで次のように説明している。

《種のある原生種のバナナからは、本来、さまざまな性質を持つバナナが生まれ、病気に打ち勝つ品種が自然に生まれるという「せめぎ合い」が起こるはず。その、せめぎ合いこそが生物多様性であり、生き物の長い歴史を豊かにしてきた原動力です。けれども、人間の都合である品種だけを大量に増やしたせいで、バナナの多様性は失われ、産業も壊滅的打撃を受けることになったのです》

その後ホンジュラスでは、パナマ病に強い新品種「キャベンディッシュ」がつくられるようになり、バナナの主要産地として復活した。しかしそれでも未来は磐石ではない。最近になってパナマ病の菌が変異した「新パナマ病」が発生、東南アジアを中心に大きな被害が出ている。
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ライター情報

近藤正高

ライター。1976年生まれ。エキレビ!では歴史・科学からドラマ・アイドルまで手広く執筆。著書に『タモリと戦後ニッポン』(講談社現代新書)など。愛知県在住。

URL:Culture Vulture

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