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力を持っている男たちが認めるのはホステスのように従順な女だ。マツコ・デラックスの見識

2012年3月28日 11時00分 ライター情報:杉江松恋
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『世迷いごと』マツコ・デラックス/双葉社

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ナンシー関さんが2002年6月12日に亡くなって、今年でもう10年も経つ。
もうそんなに経ったんだ。
そして知らない間に、ナンシーさんの享年の40より長く生きてしまっていた。
自分で書いて、びっくりしている。
訃報が流れたあの日、私は住んでいた新宿の紀伊國屋書店本店の文庫売り場で店員がナンシーさんの本のコーナーを作り始めたのを見て、慌てて家に走って帰ったんだった。そしてニュースを知った。嗚呼。
私は、自分ではテレビを見ないのにナンシーさんの時評が大好きだった。とても健全な精神が感じられたからだ。ナンシーさんはどんなに有名になっても観客の位置から動こうとしなかった(仮装大会から仕事のオファーが来て、ハンコを彫る仕事だと思って受けたら審査員で、びっくりして断ったことがあるという)。その位置からではないと自由に物が言えないと判っていたからだ。そして、テレビに映っていることだけを評価し、裏にある業界の事情みたいなものに一切耳を貸さなかった。また、テレビ出演とは本来とても変で、異常なことであるという堅固な常識を持っていた。テレビの中で自然を装ったり、テレビに出るべきではない顔をして出てきたりする者にとても厳しかった。
これらはすべて、とても健全な考え方だ。ナンシーさんの没後、私はそれに代わる物言いの人に出会えなかった。ますますテレビの前から足が遠ざかった。

それから何年かして、ふとマツコ・デラックスという女装の怪人のことを知った。相変わらず私はテレビと縁がなかったのだけど、この人はおもしろいと信頼できる友人が言う。それでマツコの著書『世迷いごと』を読んでみた。驚いた。そこにあるのは、昔ナンシーさんのコラムに感じたものと同じ精神だったからだ。今年の2月に刊行された『続・世迷いごと』はその続篇だ。いい機会なので、私がなぜマツコ・デラックスが好きなのかを書いてみたいと思う。
『世迷いごと』は役者や歌手、アナウンサーなど、テレビに出てくる職業の女性についてマツコが語る本だった。その本の最初と最後に近いところでマツコは言っている(あ、彼でも彼女でもなくてマツコと呼ぶのは、どっちの性別で呼んだらいいのか、私がよく判ってないからです)。

――これはあたしの勝手な決めつけなんだけど、女優や歌手として大成しようと思ったら、絶対、結婚なんかしてられないんだよ。家庭に安らぎなんて求めちゃダメなんだよ。(中略)幸せな家庭があって、いい旦那がいて、子供がスクスクと育って、安らぎがあって……ということは素晴らしいし、だれもが手にする権利なんだけど、それを手にするってことは何か1つ失っちゃうことでもあるんだよ。

ライター情報

杉江松恋

1968年生まれ。小説書評と東方Projectに命を賭けるフリーライター。あちこちに連載しています。

URL:Twitter:@from41tohomania

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