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たけしからその言葉を聞いて「もう、どうなってもいい」そう思った『我が愛と青春のたけし軍団』

2012年6月29日 11時00分

ライター情報:杉江松恋

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『我が愛と青春のたけし軍団』ガダルカナル・タカ (監修)たけし軍団 (編集)/双葉社

仕事の用事で、東京都文京区音羽の講談社を訪ねた。編集者と連れ立って道を歩いていると、見慣れた建物が無くなっている。
「あ、大塚警察署ですね。今建て替え中なんですよ」
いつもその前を通っていた建物がなくなると、なんだか落ち着かないものだ。すっぽり空いたその空間を見ながら、年配のその編集者はぽつりとこう言った。
「ね、うちから近いでしょ。だからあの日も、講談社から大塚警察署まで、行列みたいになってぞろぞろ歩いていったそうですよ、逮捕された後で」

あの日とは、1986年12月8日のことだ。この日、ビートたけしこと北野武が軍団員11名とともに写真週刊誌「FRIDAY」の編集部員と乱闘を繰り広げ、現行犯逮捕されたのである。たけしが「FRIDAY」に対して立腹した理由は、彼らの取材方法だった。自分はともかく、芸人ではない家族や友人まで無断で写真を撮るなどの取材対象にするのは行き過ぎではないか(パパラッチという言葉は当時まだなかった)との抗議のために講談社を訪れたものの、編集部員と感情的なやりとりになって暴発してしまった。行動に加わらなかった軍団員は、つまみ枝豆、井手らっきょ、ラッシャー板前の3名だけ。まだ携帯電話のないころで枝豆には連絡がつかず、井手はお姉ちゃんのところに行っていて不在(そのせいで奥さんに浮気がバレた)、板前は痔の手術のため入院中だった。
『我が愛と青春のたけし軍団』の中でガダルカナル・タカは、大塚署でのこんな光景を記憶している。

ーー取り調べ室に行く途中、大塚署の暗い廊下を歩いているとき、たけしさんはちょっと振り返るようにして俺らのほうをチラッと見ると、ボソッと小声で言った。
「悪かったな。お前らには感謝してるぜ…」
後にも先にもたけしさんから感謝してるなんて言われたのは、そのときだけだ。そして、たけしさんは続けて、
「お前らのことは一生、面倒見るからよ」
胸がジーンとなった。その言葉だけで俺らは全員、
「もう、どうなってもいい」
本気でそう思った。

たけし軍団は、総帥たけしを中心として鉄の結束を誓い、滅私奉公で「笑い」のために殉じる異能集団である。その活動の最盛期は1980年代中盤から90年代前半にかけてだろう。いわゆる「フライデー事件」の前にはアイドル並みの人気を誇っていた時期もあったのである。だが、その本分は「スーパーJOCKEY」の「THEガンバルマン」コーナーや「お笑いウルトラクイズ」における汚れ仕事にあった。

ライター情報

杉江松恋

1968年生まれ。小説書評と東方Projectに命を賭けるフリーライター。あちこちに連載しています。

URL:Twitter:@from41tohomania

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