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「ヘルタースケルター」の天才・岡崎京子はデビュー前からスターだった

2012年8月20日 11時00分 ライター情報:近藤正高

ばるぼら『岡崎京子の研究』アスペクト刊
本書は「0.1963-1979 岡崎京子の前史」「1.1980-1985 岡崎京子の黎明期」「2.1986-1988 岡崎京子の初期」「3.1989-1992 岡崎京子の中期」「4.1993-1996 岡崎京子の後期」「5.1997-2012 岡崎京子の事故後」「6.付録 主要単行本解説/参考文献」の7章で構成される。この合間あいまには「岡崎京子の名物連載」と題して「月刊カドカワ」「TV Bros.」「anan」「朝日ジャーナル」といった雑誌での連載から各回の要約・抜粋が収録されている。各章の年譜と合わせて、ファンは読んでいて飽きない。

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1980年代初めに、現在のインターネットを予感させるような雑誌が日本に存在した! なんて言っても信じてもらえないだろうか。しかし実在したのだ。その雑誌の名は「ポンプ」という。同誌を創刊した編集者・橘川幸夫は当時、その創刊意図を次のように書いていた。

《ぼくは、今「雑誌」を作ってるという意識はない。白い紙の束を全国に流通させることが、ぼくの仕事だ。黒いインクは、みんなに伝えたいことがある人、個人がやる仕事だ。ぼくの仕事は、一人→不特定多数につながる電話回線のとりつけだ》(「宝島」1980年5月号)

《一人→不特定多数につながる電話回線》という表現からは、やはりインターネットを連想してしまう。実際、「ポンプ」をいま読むと、誌面で自然発生的に読者たちが同じ話題で盛り上がる様子はネットの掲示板を彷彿とさせるし、巻末には前号以前に掲載された投稿に対する意見や感想がまとめられ、ブログにおけるトラックバックやツイッターのRTのような機能を果たしていた。

私は数年前、この「ポンプ」を、国会図書館で一日かかって創刊号から最終号まで閲覧したことがある。それは昔のサブカルチャー雑誌の投稿欄から、のちの著名人たちの無名時代の投稿を探し出すといういささか趣味の悪い企画のための作業で、その原稿は「ユリイカ」の雑誌特集(2005年8月号)に掲載された。

1979年から85年まで7年分のバックナンバーからは尾崎豊や直木賞作家の熊谷達也など意外な名前が見つかった。だが、「ポンプ」投稿者から生まれた最大のスターは何といっても、のちにマンガ家となる岡崎京子だろう。高校から短大時代にかけて同誌に投稿していた岡崎は当時より人気者で、読者のあいだでファンクラブが結成されたり、読者による「岡崎京子論」なんてものまで誌面に登場するほどだった。ただし岡崎が同誌に投稿していたのは文章やイラストで、マンガではない。それでも少女の目の描き方などからは、すでに後年の作風の片鱗がうかがえる。

ここ最近、映画「ヘルタースケルター」の公開と合わせて、原作者である岡崎に関する書籍があいついで刊行されている。ばるぼら著『岡崎京子の研究』もその一冊だ。さすが『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』をはじめ徹底した調査にもとづくデータベースづくりを得意とする著者だけあって、本書でもまた岡崎京子の仕事が微に入り細に入り網羅されている(それでもすべての仕事が網羅されているわけではないというのだが)。

ライター情報

近藤正高

ライター。1976年生まれ。エキレビ!では歴史・科学からドラマ・アイドルまで手広く執筆。著書に『タモリと戦後ニッポン』(講談社現代新書)など。愛知県在住。

URL:Culture Vulture

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