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マンガでしか届かない震災があった『ストーリー311』

2013年4月12日 11時00分

ライター情報:松浦達也

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『ストーリー311』の印税と収益は、被災地復興のために寄付される

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「いいマンガって、人生を左右するほど深く残るよね」。3月に行われたマンガ大賞授賞式の後、選考員とそんな話になった。セリフ、シーン、ストーリー──。いつの時代もマンガは大切なものを記憶に残してくれる。マンガが特別というわけじゃないのかもしれない。小説だって、テレビドラマだって、CMだって、そのメディア、そのチャネルでしか届かないものはあるだろう。でもマンガでしか届かないものもきっとある。

『ストーリー311』。東日本大震災の被災地へと自ら足を運んだマンガ家たちが、描き上げたドキュメンタリー短編マンガ集だ。主な登場人物は6歳の少女から、71歳のジャズ喫茶のマスターまで。11の物語が11の視点で描かれている。プロジェクトに参加したマンガ家は、ひうらさとる/上田倫子/うめ/おかざき真里/岡本慶子/さちみりほ/新條まゆ/末次由紀/ななじ眺/東村アキコ/樋口橘という11組。マンガ家自身が現地を訪れ、その取材をもとにそれぞれが短編を構成したという。

タイトルのない11編

各ストーリーにタイトルはない。扉ページには作家の名前と地域名のみが記され、あの日とあの日以降の“日常”が、8ページずつにまとめられている。その主人公は次のような人たちだ(順不同。概況、年齢・職業は当時)。

・妻を失い、6歳の娘との生活に光を見出そうと模索する父親(44歳・男性)。
・自らを二の次に、生徒たちを守ることに専心する小学校教師(36歳・女性)。
・原発事故直後に関西への転校を強いられた中学生(中学2年生・女性)。
・開店3か月の店が流されてしまった、ジャズ喫茶のマスター(71歳・男性)。

他にも、家族や周囲の健康を不安に思う母親、友人を助けられなかった後悔を抱える男性、自店を失いながら避難所で半年間料理を担当した調理人兄弟など、ストーリーの主人公の立ち位置はそれぞれ異なる。

こうした「被災者のプロフィール」は震災後、数多く報道されてきた。しかし受け手にとって「情報」だけを並べられても記憶には残りにくい。かといって、誰かひとりに焦点を当てると、無数にある感情にまで想像が広がらない。表現者の手法が受け手に合わなければ、たったひとつの物語すら届かない。

その一方、震災というテーマを扱うのはとてもむずかしい。現地を取材した作り手には多かれ少なかれ「そこに住まう人を傷つけてはいけない」という心理が働く。同じ表現をしてもなんとも思わない人もいれば、傷つく人もいる。

ライター情報

松浦達也

ライター/編集者にして「食べる・つくる・ひもとく」フードアクティビスト。マンガ大賞選考員。近著に『大人の肉ドリル』(マガジンハウス)

URL:Twitter:@babakikaku_m

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