今注目のアプリ、書籍をレビュー

0

『AKIRA』はなぜ2020年東京オリンピックを予告できたのか

2013年9月12日 11時00分 ライター情報:近藤正高
このエントリーをはてなブックマークに追加

大友克洋『AKIRA』第1巻
いまなお読み継がれる名作。単行本第1巻が出たのは雑誌連載開始から2年後の1984年。連載誌と同じ判型で、ページ数を多くして束を厚くし、小口には色をつけたそのブックデザインは、マンガの単行本としては当時画期的だった。

[拡大写真]

2020年の夏季オリンピック開催都市が東京に決まった。9月8日早朝(日本時間)に開催地の発表があった直後から、ネット上には、大友克洋の長編マンガ『AKIRA』ではすでに物語の背景として2020年の東京オリンピックが登場していたと指摘する書きこみがあいついだ。

それにしてもなぜ、大友は1980年代の時点で、将来の東京オリンピックを、それも2020年と正確な開催年まで“予言”することができたのか? よく考えてみると、それはわりと単純な理由だったりする。

『AKIRA』の冒頭、1982年12月に第三次世界大戦が勃発したのち、時代は一気に37年後、翌年にオリンピックを控えた2019年(各巻の巻頭のあらすじ紹介では「ネオ東京38年」という年号が用いられている)へと飛ぶ。どうして37年後だったのか? それは現実世界で『AKIRA』の雑誌連載が始まった1982年が、第二次世界大戦の終結から37年後だったので、そのまま当てはめたのだろう。そのことは大友自身の次のような発言からも裏づけられよう。

《やっぱりぼくは東京が好きなんですね。この東京を別のかたちで語り直してみたいという欲望があったんだろうな。[引用者注――『AKIRA』は]いちおう“近未来SFアクション”なんだけど、気分的には、戦後の復興期から東京オリンピックの頃のような混沌とした世界を構築したかったんだよ。こんなに無思想で歪んでめまぐるしく変化していく都市というのは、やっぱり魅力的だからね》(『美術手帖』1998年12月号)

事実、『AKIRA』には、21世紀を舞台にしているにもかかわらず、戦後の復興期から高度成長期にかけての風景やモノを思い起こさせるものが多数登場する。

超高層ビルの建ち並ぶネオ東京だが、一歩路地裏に入れば昭和っぽい家屋や店舗が軒を連ねているし(再開発の進む現実の東京ではいまや消えつつある風景だ)、主人公の金田少年が逃亡中にかくまわれるアジトにも、四畳半にちゃぶ台の置かれた部屋があった。金田はそこで“人工サンマ”を出され、貪るように食べる。そのカットはどこか小津安二郎の映画のワンシーンを想起させる。アジトの主でゲリラに武器を調達する「おばさん」ことチヨコも、出てきた当初は割烹着をまとい、昭和のおかみさん風に描かれていた。

ほかにも、ミヤコ様を教祖とする新興宗教の神殿は、東京オリンピックのためにつくられた国立代々木競技場や、東京カテドラル聖マリア大聖堂(いずれも1964年竣工)といった丹下健三設計の建物を彷彿とさせる。

ライター情報

近藤正高

ライター。1976年生まれ。エキレビ!では歴史・科学からドラマ・アイドルまで手広く執筆。著書に『タモリと戦後ニッポン』(講談社現代新書)など。愛知県在住。

URL:Culture Vulture

コメントするニャ!
※絵文字使えないニャ!

注目の商品