料理するときは、おいしくつくることだけに集中してて、カロリーなんて全然気にしないな。
最近までずっと、カロリーの数字が示す意味がよくわかりませんでした。
こう語るのは、本書の著者、料理研究家の枝元なほみ・多賀正子の2人(前者は枝元、後者は多賀のコメント)。しかしながら、レシピを見ると、まず目につくのは大きな、そしてちょっと物々しいフォントのカロリー表記である。料理本にカロリーが記されるのは珍しいことではない。しかし、である。
通常、レシピ本などにおいてカロリーが記載される目的は、「食べ過ぎないため」にある。たとえば、カロリーの高い揚げ物などをメインディッシュにする場合、副菜などはカロリーを抑えたものをチョイスするのが好ましい。そんなふうに、献立を立てる際に目安となるのが、カロリーである。
だが、この『禁断のレシピ』内に並ぶ数値は、おそらくそうした目的は持っていない。「どうだ! すごいだろう!!」と、いわば読者にインパクトを与えることだけをその役割としている節がある。というのも、本書で紹介される料理のカロリーは、1000kcal超えなんて当たり前。
では、ここで本書の料理をいくつか紹介しよう。両者の、食の嗜好の違いも読みどころだ。
まずは枝元レシピから。ちょこちょこと、しかし延々食べるタイプの料理が多いのが特徴だ。
・チップスの甘辛ディップ
脂っ気たっぷりの鶏皮(!)を揚げてチップスに見立てた危険なスナック。ディップは甘・辛の2種類あり。甘いものを食べたらしょっぱいものが食べたくなる人の習性を利用した、恐ろしいエンドレス・メニューである。
・えびとマッシュルームのアヒージョ
「えびもマッシュルームも単なる『だし』」と言い切るこの料理の主役は、旨みをたっぷり移した「油」。油を吸いやすいパンをたっぷり用意して、最後の一滴まで拭うべし。
続いて多賀レシピ。
・黒白チャーハン
黒色のチャーハンと白飯が一皿に盛られた、炭水化物強化メニュー。「もしや…」と思った方の予想はおそらく正しい。甘じょっぱ辛く味付けされた黒チャーハンをおかずに白飯を食べるのだ。ラーメン+チャーハンより背徳感を強く感じるのは私だけだろうか。
・フライドビーフ
名前の通り、揚げた牛サーロインステーキである。しかも肉の量は1.3キロ! 付け合わせはじゃがいも10個分のマッシュポテトだ。総カロリーは驚愕の6150kcal! 作者曰く「マッシュポテトは飲み物」とのことだが、そんな迷言初耳です。
また、デザート類もじつにパンチがあり、読んでいるだけでコーヒーが欲しくなる。
「トリプルチョコレートケーキ」は、1人分=板チョコ1枚使用、カロリーは約7000! また、「ピーナツバター使いきりクッキー」は、その素朴なルックスに気を許すと、とんでもないことになる。
とんでもない数値のメニューが普通に並んでいるため、1000カロリー程度の料理が低カロリーに思えてくるのから恐ろしい。正直「こんなに食べて、大丈夫?」と、ちょっと心配になってくる。しかしその反面、「食べたい物を、美味しく好きなだけ食べたい」という2人の思想は、なんだか清々しくもある。そして、なにより楽しそうなのだ。枝元はあとがきに、
今の世の中、あれもこれもダメ、ここは要注意だしこうあるべき、なんて自己規制を強いられることが多すぎる(略)食べることはただ養分を摂取するだけのものじゃなくて、もっとずっと生きていくことに近い(略)
と書く。そして「おおらかにいこう!」とも。
明日を生きる活力を得るために、時に食欲に身を任す――それは正義だ。たとえどんなに「こってり」だろうとも、「たっぷり」だろうとも、彼女たちの料理は、精神的には大変「ヘルシー」なのである。
※※※
本書はレシピ本である。レシピ本である以上、作ってナンボ。
レシピ通りに作れば、スペアリブを1.5kg用意しなければならない。しかし、我が家には1.5kgもの肉を焼ける大きさのフライパンはない。そのため、残念だが、半量で作ることにした(直径26cmのフライパンを使用)。
にんにくを炒めた油(にんにくはいったん取り出す)で、塩胡椒したスペアリブを焼く。焼き色が付いたら、にんにくを戻し入れ、酒とガラムマサラを加え、弱火で蒸し焼きにする。最後に砂糖、醤油、みりんを煮からめ、完成。蒸し煮の時間が30分とそこそこ長いが、逆に言えばそれくらいしか手間はかからない。
ガラムマサラ1つで、複雑かつ奥行きのある味・香りになる、その手軽さが嬉しい。口のまわりを油でテラテラさせながら、真っ黒な骨付き肉をむさぼる。濃厚な味に支配された口中に、ビールを流し込む快感たるや! 気付けば、あっという間に骨の小山ができていた。
そして、これだけで終わらない。フライパンに残った旨みの塊のようなタレで、ご飯と刻んだパセリを炒め、〆の焼き飯を作る。満腹だったことを忘れ、黒い輝きを放つ飯をガシガシかっ込む。すると、食べ過ぎの後ろめたさなど一気に突き抜け、むしろ爽快な気分になっているのだった。
(辻本力)