大谷翔平(日本ハム)は若干20歳にして年俸1億円に到達。
日本球界に復帰する松坂大輔(ソフトバンク)、そして中島裕之(オリックス)はともに3年12億円!

この時期、プロ野球界は毎日のように華々しい数字でスポーツ紙の紙面が賑わう。
その一方で、筆者と同い年(37歳)の藤井秀悟はDeNAから戦力外通告を受け、トライアウトに挑むも獲得する球団はゼロ。現役引退を余儀なくされた。

藤井だけではない。現在までに12球団で戦力外通告をされたのは121 人。最多はソフトバンクとオリックスの14人だった。松坂と中島を獲得するための資金捻出……と勘ぐりたくもなってくる。


試合がないからこそ盛り上がるストーブリーグ。この時期、野球狂のための情報源として最適なのが『野球太郎No.013~2014ドラフト総決算&2015大展望号』だ。

2014年ドラフト会議で指名された104名(育成ドラフト含む)の名鑑、さらには注目選手30名分のインタビュー記事だけでも読み応え十分。
もちろん、4球団が競合して日本ハムが交渉権を獲得した有原航平(早稲田大)、同じく競合の末に楽天が交渉権を獲得した安樂智大(済美高)、京大初のプロ野球選手として注目を集める田中英祐などなど、注目選手たちの情報量、そしてマニアック度は他誌の追随を許さない。

ただ、本書の真骨頂は前途有望なドラフト組の記事だけでなく、挫折を味わい、戦力外を受けた(元)プロ野球選手たちの物語にこそある。

これから夢を追う者、そして既に夢破れた者。

プロ野球の人生交差点に迫った一冊なのだ。

たとえば、DeNAを戦力外通告された若干20歳の北方悠誠。高校時代に153キロ、プロ入り後も最速158キロを誇った右腕が、たった3年で解雇された背景に迫る『逸材はなぜプロで壊れてしまうのか?』。この記事の中で記された12球団合同トライアウトでの描写が何とも痛々しい。

《もはやプロの投手の投げ方ではなかった。テークバックで腕が縮こまり、ヒジをくの字に曲げたまま押し出すようなフォーム。
肩を痛めた選手が痛む場所を避けるような不自然な形から130キロ台中盤のストレートを続けた》

158キロを投げていた本格派右腕がなぜかサイドスローに転身し、たった数年で130キロ台がやっとになる……「投げる体はあるのに、投げ方がわからなくなった」という北方自身のコメント、そしてその背景にある指導者たちとスカウトの認識のズレ、連携不足は歯がゆくもある。

北方は11月22日にソフトバンクと育成契約を結び、もう一度プロ野球選手として活躍するチャンスを得た。球界でも随一の理論派であり、大学院で動作解析につながる勉強もしていた工藤公康新監督のもとで、どんな復活ストーリーを描くのか(それとも、やはり描けないのか)に注目が集まる。

他にも、「ドラフトの犠牲者」として語り継がれ、1970年の“荒川事件”(※)の当事者、荒川尭の生き様を描いたノンフィクション『伝説のプロ野球選手に会いに行く~荒川尭編』も、今年で50回目の節目を迎えたドラフト制度を考察する上で貴重なエピソードが満載だ。

※荒川事件=王貞治を育てた名コーチ・荒川博の養子で、早稲田大のスター選手だった荒川尭が1969年ドラフトで大洋(現DeNA)から1位指名されるも入団拒否し、その後に暴漢に襲われる。そしてこのときのケガが原因で選手生命を縮めた一連の出来事。


「えーと、親父と出会って、早実に入って、早稲田で成績残して、ドラフトで大洋に指名されて、入団拒否して、暴漢に襲われて、ヤクルトに入って…、そんなもんか」
「いろいろ騒がれるから余計に意固地になっちゃったんだよ。行かねえって言った以上は行かねえと」

なんとも気っ風よく自身の壮絶な野球人生を振り返る荒川の言葉には悲壮感はなく、ドラフトの犠牲者、なんて印象は微塵も感じられない。

それどころか野球を恨むことも憎むこともなく、実業家として働くかたわら、野球教室を開催して野球界に恩返しを続けているという。

野球をこじらせた者たちが、それでもどう野球とかかわって「その後の人生」を生きてくのか……野球というスポーツの奥深さ、罪深さ。それゆえ、観る者を釘付けにするプロ野球の不思議な魅力が凝縮された本書は、まだまだ続くオフシーズンに最適な一冊のはずだ。

そしてもうひとつお知らせ。

年末の風物詩、野球界をとりまく人間模様、そして家族の物語を描くあの番組が今年もやってくる。
「プロ野球戦力外通告 クビを宣告された男達」がTBS系列で12月30日(火)22時から放送される。

今年はその30日の本放送に先立ち、「プロ野球戦力外通告」の特別企画が三回に渡ってニコニコ生放送で公開される。

第一夜が今日12月22日(月)の19時~22時。
【TBS「プロ野球戦力外通告」×講談社「グラゼニ」 スペシャルコラボ企画『野球とゼニ』座談会】

第二夜が12月29日(月)の19時~
【TBS「プロ野球戦力外通告」ダイジェスト 過去10回分の中から、貴重な映像を公開SP】

第三夜が12月30日(火)の19時~
【TBS「プロ野球戦力外通告」テレビ放送直前 G.G.佐藤氏をゲストに語りつくす裏話SP】

そして今夜の【TBS「プロ野球戦力外通告」×講談社「グラゼニ」 スペシャルコラボ企画『野球とゼニ』座談会】に、僭越ながら筆者も出演させていただく。こちらに関してもよろしくどうぞ。

(オグマナオト)