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TV版「エヴァ」か江口寿史「POCKY」か。世紀のデタラメ、文学的大事故『別れる理由』復活

2015年7月19日 10時50分

ライター情報:千野帽子

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《小島信夫長篇集成》全10巻(水声社)、というとんでもないシリーズが、ついに刊行開始となった(パンフレットはこちら)。
その第1回配本は、第4巻『別れる理由I』だ。
《小島信夫長篇集成》第1回配本第4巻『別れる理由I』(水声社)。解説=千石英世、解題=柿谷浩一、月報=勝又浩+大杉重男。9000円+税。全巻予約者は特典『小島信夫の世界』(仮題、非売品)をもらえる。

小島信夫ってどんな人?


小島信夫(1915-2006)といえば、まずはドライなトホホ感に溢れるドタバタ短篇小説「アメリカン・スクール」(新潮文庫Kindle)で芥川賞を受賞し、「第三の新人」のひとりとして遠藤周作や庄野潤三、吉行淳之介、安岡章太郎、阿川弘之、曽野綾子らとともに注目された作家だ。
小島信夫『アメリカン・スクール』(新潮文庫)。カヴァー=平岡瞳。590円+税。村上春樹が『若い読者のための短編小説案内』(文春文庫)で取り上げたシュールな不条理コメディ「馬」もこれで読める。

その後、新居の建造から妻の米国人との不倫と病死、という私小説的題材をあつかった長篇小説『抱擁家族』で谷崎賞を受賞した。
小島信夫『抱擁家族』(講談社文芸文庫)。カヴァー=菊地信義。1,100円+税。

ついで、この『別れる理由』あたりから、前衛的というかメタフィクションというかたんにぶっ壊れてるんじゃないかというようなヘンテコな小説を延々と書き続けた。
彼はまた明治大学の英語教師を定年まで勤め上げつつ、英米文学者として翻訳も少々やりながら、併行して小説や俳句や劇や美術を論じるこれまた膨大な量の評論を書き、戯曲にも手を染め、一時は雑誌で人生相談欄まで担当していたという。

恐るべきタフさと、ゲラすらチェックしてないのではないかと言われる「戦略的ずさんさ」で、この作家は91歳で亡くなるまで現役でありつづけ、膨大な仕事量をこなした。
その問題作『別れる理由』(1982年刊)が、33年の時を超えて、あらたに刊行されることになった。33年前と同じ3分冊で。

なぜか主人公が馬になってしまう


『別れる理由』は月刊誌《群像》に12年半、150回、一度の休載もなく連載された。1981年に連載が終わったとき、400字詰原稿用紙にして4,000枚ぶんあったという。
最初から長篇だったのではなく、短篇を毎月連載する《町》というシリーズの1挿話(第10話)の予定だった。

それが1回で終わらず、どんどん膨れ上がっていって、4,000枚だ。どうかしている。
『世にも奇妙な物語』の1エピソードかと思って見はじめたら『サザエさん』になってしまったという感じだ。

序盤3分の1は、読みにくいなりにまだどうにかリアリズム小説のふりをしている。主人公は大学教授兼文筆家。その点は作者に似てる。
ところが中盤(『別れる理由II』)で〈夢くさい〉世界に突入し、登場人物たちが乱交しながら歌いまくるミュージカル場面が(雑誌連載で)何年も続く。『ファントム・オブ・パラダイス』とか『オール・ザット・ジャズ』みたいな、病んだ1970年代ミュージカル映画と同質のトチ狂ったデタラメさである。
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ライター情報

千野帽子

文筆家。著書『読まず嫌い。』(角川書店)『文藝ガーリッシュ』(河出書房新社)『俳句いきなり入門』(NHK出版新書)など。公開句会「東京マッハ」司会。

URL:Twitter:@chinoboshka

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