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吉本ばなな「自殺が近づいて来たなと思ったら、落ち着いて生活を整えてください」

2015年7月22日 10時30分

ライター情報:千野帽子

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『おとなになるってどんなこと?』(ちくまプリマー新書)で、吉本ばななさんは8つの質問に答えている。

●おとなになるってどんなこと?
●勉強しなくちゃダメ?
●友だちって何?
●普通ってどういうこと?
●死んだらどうなるんだろう?
●年をとるのはいいこと?
●生きることに意味があるの?
●がんばるって何?
吉本ばなな『おとなになるってどんなこと?』(ちくまプリマー新書)。装画=後藤朋美

ばななさんの、〈初めて大人になったと思えた瞬間〉は、〈情けないことにそうとう遅く、中学生のときでした〉という。遅くないと思うが……(書名・章題では〈おとな〉だが本文中の表記は〈大人〉)。
それはどういうときに訪れたか。

思春期鬱の構造


本書によると、子ども時代のばななさんは、なかなか気苦労の多い、ストレスフルな性分だったらしい。中学時代には〈一種の鬱状態〉にあったという。これは相当につらい体験だったようだ。

〈親や周囲からしてみたら、心を開いて、なにに傷ついているか言ってくれればなんでもないのに、と思います。
でも、本人にとって、それはいちばん言えないことなのです。それを言ったら自分が終わってしまうくらいの重いことなのです〉

あるとき、腎臓まで悪くし、学校を休んで検査に行くことになった。
〈父と、かかりつけのその病院の婦長さんをしていた親戚同様のおばあちゃんがついてきてくれました〉。
ばななさんは不機嫌だった。なにしろ学校に行けず、点滴や採血をしたり、水を1リットルも飲んだりしなければならないのだ。
〈検査の日、私の心は朝から怒り狂っていました〉。

大人になったと思えた瞬間


ところが、検査が終わって、〈突然に病院の出口で私は悟ったのです〉。
〈私だけではない、このついてきたふたりにとっても、今日は自分のしたいことができる一日だった。
なのに、私のために廊下でずっと待ったり、いっしょに結果を聞いたり、立っていたりしてくれた。〔…〕
そんなことがいっぺんに丸ごとわかったのです。〔…〕
私は言葉では、その全部をずとんと感じたのです〉
全見開きにひとつずつ、後藤朋美(Gotton)の挿画。

このことの貴重さを、それこそ〈言葉ではなく〉、体で感知できるような視点を持つこと。それが「大人になる」ということなのだろう。
だとしたら僕なんかもっと遅かった。年齢的に「いい大人」になっても、この視点を持ってない時期が長かったなあ。

自分を全肯定する生きかた


ばななさんは言う。
〈辛いことは、その場ではほんとうに辛いし自分を深いところまでゆがめるけれど、あとで必ずなにかの土台になります。そう思って辛抱するしかないんです。

ライター情報

千野帽子

文筆家。著書『読まず嫌い。』(角川書店)『文藝ガーリッシュ』(河出書房新社)『俳句いきなり入門』(NHK出版新書)など。公開句会「東京マッハ」司会。

URL:Twitter:@chinoboshka

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