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筒井康隆を読まずに死ぬとかあり得ない。原点「東海道戦争」を改めて読んで唸った

2015年9月9日 10時50分 ライター情報:千野帽子
最新長篇小説「モナドの領域」を読んですっかり感動してしまったあまり(レビュー)、ふと気づいてしまったのだが、小説家・筒井康隆が「単行本デビュー」してから、来月で50年になる。
と気づいたので、ひとつ読み直してみようと思った。
最初の単行本は『東海道戦争』(《ハヤカワSFシリーズ》)。現行の版は中公文庫。ただし4篇削除されている。詳細は後述。
筒井康隆『東海道戦争』(中公文庫)。686円+税。カヴァー=真鍋博。

筒井さんは1960年に、3人の弟さんたちと、動物学者である父・筒井嘉隆とともに、家族同人誌《NULL》を創刊し、その掲載作品が江戸川乱歩の目に止まって、同年夏に旧《宝石》誌で商業誌デビューしている。商業誌デビューからだと55年ということになる。
短篇集なので、そのすべてを紹介するわけにはいかないから、どれか1篇ということであれば、表題作「東海道戦争」を取り上げたい。

東京と大阪が戦争に!


語り手〈おれ〉は大阪・北摂の千里に、弟たちや母といっしょに住んでいる小説家。当時の筒井さん自身を戯画化したものだ。
朝のTVで戦争の勃発を知るが、どこの敵と戦うことになったのかがわからない。ダイヤの乱れた阪急電車で梅田に出て、事態が「東京vs.大阪」の戦争であることを知る。
日本分裂という広い主題には、獅子文六『てんやわんや』という先行作品があり、本作以後には井上ひさし『吉里吉里人』(上巻中巻下巻)、村上龍『五分後の世界』『ヒュウガ・ウィルス 五分後の世界』『希望の国のエクソダス』、『半島を出よ』(上巻下巻)(最後の2作には筒井さんの『歌と饒舌の戦記』を思い起こさせるところもある)、矢作俊彦『あ・じゃ・ぱん!』(上巻下巻)など作例は多い。
村上龍『五分後の世界』(幻冬舎文庫)。533円+税。カヴァー=横尾忠則。

2020年東京オリンピックの公式エンブレム撤回に見られるように、なにかと「オリジナリティ」なるものを称揚する世のなかだけど、いったん頭を冷やしてモティーフが共通する作品を読み比べるのも楽しいよ。小説家というものは意外に、大喜利のお題に向かうような気持ちで書いているのではないだろうか。

ショウとしての「事件」


〈おれ〉の友人で大阪の放送局のアナウンサー・山口は、開戦をつぎのように分析する──大衆の、戦争という〈事件を起すことができる、自分たちの能力についての期待〉と、情報の〈あいまいさ〉によって、戦争が始まったのだと。
SNSとスマートフォンが普及する40年前に書かれた小説だというのに、これはなんだか、ネット世論にまつわる議論に似てはいないだろうか?
またいっぽうでこの話題は、2015年7月の安保法制抗議デモをTVの報道番組があまり報じなかった、といった現象とも、いわばウラオモテの関係にある。

ライター情報

千野帽子

文筆家。著書『読まず嫌い。』(角川書店)『文藝ガーリッシュ』(河出書房新社)『俳句いきなり入門』(NHK出版新書)など。公開句会「東京マッハ」司会。

URL:Twitter:@chinoboshka

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