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天才・談志を嫉妬させた名著『赤めだか』

2015年12月28日 09時50分 ライター情報:杉江松恋
「坊や、よく覚えとけ、世の中のもの全て人間が作ったもんだ。人間が作った世の中、人間にこわせないものはないんだ」
この人は天才だと思った。
『赤めだか』立川談春/扶桑社

立川談春『赤めだか』は競艇選手に憧れ、身長が規定よりも高かったために、その世界に進むことを断念せざるを得なかった一人の少年が、立川談志という天才の高座に出会い、魅了され、高校を中退して弟子入りすることから始まる。談春の青春記というべき内容であり、紆余曲折を経て彼が真打昇進を果たすまでが描かれている。冒頭に引用したのはその第1章で、談春が初めて談志の家を訪れたときのエピソードだ。

ぜひ原作の『赤めだか』を


同書の原型は雑誌「en-taxi」(休刊)連載である。連載中から話題となり、読書家の注目を集めていた。2008年に単行本として刊行されるとその人気は爆発し、第24回講談社エッセイ賞も授与されている。2014年11月の落語立川流「談志まつり」においてドラマ化が発表されたが、放映日がなかなか定まらなかった。気になって仕方のなかったファンも多いはずだ。この12月28日が待望のその日である。談春を二宮和也、その師である立川談志を、立川流Bコース(芸能人・有名人に門戸を開いていたが、現在は廃止)で立川錦之助を名乗っていたビートたけしが演じる。たけしは最近、落語へ回帰する姿勢を示しており、立川梅春を名乗って高座にも複数回上がっている。

ドラマの前に、あるいはドラマを観た後でも、ぜひ原作の『赤めだか』を読んでもらいたい。単行本の帯には文芸評論家・福田和也の推薦文が記載されている。その一節に「間違いなくこの人は、言葉に祝福されている」とある。その通りだと思う。
本書の素晴らしい点は何よりも語りの芸だ。読者は、談春の視点を通じて物語の世界に入っていく。主軸にあるのは、師・立川談志の言葉だ。心が翳って挫けてしまったとき、物事が見えなくなって一歩も前に進めなくなったとき、談志の言葉が談春にとっての道標となる。時に厳しく突き放されることもあるが、言動のすべてが理に適っているのである。巨大な存在に見守られながら一つの道を歩んでいくという体験を、読者は談春と共有することになる。だから読んでいて心地いいのである。

人が人を思う気持ちを


個々のエピソードはおもしろく、大いに笑える。そして若き日の談春のとまどいや苦渋もすべて心に残る。本のどこをとってもつまらないページが一つもない本だ。

ライター情報

杉江松恋

1968年生まれ。小説書評と東方Projectに命を賭けるフリーライター。あちこちに連載しています。

URL:Twitter:@from41tohomania

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