ドラマの大筋は、新設の高度先端医療センターに集められた6人の優秀な医師たちが、一般の病院では治療困難な重病患者の命を救うために、知識と技術の限りを尽くすというもの。
だが、高度で先端な「ラストホープ」は、これだけでは済まさない。
相葉雅紀演じる総合医・卓巳は「患者さんにとって、このセンターは医療の最後の砦――ラストホープなんですよ」を決め台詞にして、日々、重病の患者の命を救おうとつとめているが、その合間に、自分の出生の秘密という重大事を探っている。
それだけなら医療ミステリーとしてあってもおかしくはないが、「ラストホープ」では、医療とミステリーがミルフィーユ状態。
相葉(卓巳)だけでなく、彼の同僚の5人の天才的医師たちも、全員が全員、人には言えない秘密を抱えているのだ。
才能ある彼らを悩ますものは主にこうだ。
卓巳は、子供の頃、手術を受けた記憶がおぼろげにあるが、それが何の手術だったかわからない。
もうひとり同じ年くらいの子供や、見知らぬふたりの男女がいたことや、そこにいた医者が「ケセラセラ」を鼻歌で唄っていたことが時々フラッシュバックする。
自分が両親の本当の子供ではないという事実と、過去の手術とが何か関係あるのではないかと疑っている。
「趣味は命を救うこと」と皆に揶揄されるほど真面目な脳神経外科医・歩美(多部未華子)は、十代の頃に研究者だった父が研究をめぐって仕事仲間を殺したことから人生が一変してしまった。
なぜ父は殺人を犯してしまったのか、十代のときの悲劇が今でも彼女を苛んでいる。
手術の腕は天才的だがチャラ男の心臓外科、消化器外科医・高木(田辺誠一)は、病気の恋人の延命治療を断ち切ろうとして病院を追われ、アメリカに渡った過去をもつ。
何もできなくなった肉体を生かし続けることに意味があるのか、高木は迷い続ける。
ギャンブル好きのシングルマザーの血液内科医・雪代(小池栄子)は、飛行機の中で母が突然体調を悪くしたとき、医者が乗り合わせていたにも関わらず助けてもらえなかったことが忘れられない。母のかたきを今も探している。
高度先端医療をビジネスにしようと企む神経眼科医・副島(北村有起哉)。子供の頃に目の手術を受けた時に、「医療は金になる」と抱いた野望をずっと燃やし続けている。
優秀な研究医・古牧(小日向文世)はいつも落語を聴きながら亡くした息子のことを思い出している。彼の研究の目的は、息子を生き返らせるためなのだ。
人には他人には明かさない秘密があるものとはいえ、よくぞこんなにトラウマの持ち主ばかりを集めたものである。
しかも、みんな変人ばっかり。
卓巳は、空気を読まずにカンファレンス中でもひとりでおやつを食べるし、歩美は無愛想で生意気。高木は手術中でも美人に気を取られるし、雪代は白衣が色っぽすぎ。副島はビジネスのためだけに病院の娘と結婚した策士。古牧は話が長い。
もっとも、こういうはみだし者だけど才能ある人たちの集団は、魅力的ではある。
そんな人たちを集めた好事家さんは、高度先端医療センターのセンター長・鳴瀬(高嶋政宏)。
しかもこの人、相葉雅紀(卓巳)の出生の秘密と関係があるらしい。
卓巳と鳴瀬だけでなく、高木と雪代、歩美と古牧、高木と副島にも、過去に何らかの関わりが……。
運命的に集まった相葉雅紀(卓巳)含む6人は、同時性4重複癌、重度の心不全と虚血性心筋症、膠芽腫、骨髄異形成症候群、膵臓がんなどの非常に難しい手術をしながら、その合間に自分の過去を回想するという実に高度なことをやってのける。
お願い、医療に集中して! と心配になってしまうが、それだけ精鋭ってことなんだろう。
未来を作る先端医療に携わっているにも関わらず、登場人物たちは過去にとらわれまくっていて、毎回、6人の過去の記憶が何度もフラッシュバックする。
フラッシュバックは近年、ドラマにも映画にも効果的に用いられている手法だが、
このドラマは一話の半分くらいがフラッシュバックなんじゃないかというほど。
しかもそのフラッシュバックは肝心なところは見せないようになっている。
かろうじて、彼らの過去の体験と、目の前の患者の境遇を重ねて考えられることもあるが、この話はいったいどことどうつながっているんだ? とモヤモヤすることもしばしば。
だが、それらが結末へのヒントになっていると思うと、一瞬たりとも気を抜けない。
ゆくゆくは、このバラバラの断片が最後の最後で組合わさったとき、必ずえも言われぬ快感が襲ってくるってことだけは言われなくてもわかるから、その喜びに出会いたくて毎週一生懸命見てしまった。
キャラクターの歴史年表を作って見ていた人もいるようだ。
脚本は、浜田秀哉。相葉と同じく嵐の二宮和也主演で、DNAをテーマした映画「プラチナデータ」(大友啓史監督)の脚本も手がけている。
さて、大量の回想シーンを10話まで見続けていると、楽しみどころが見つかった。
回想シーンがあるおかげで、冷静沈着に医療に携わっている相葉雅紀(卓巳)たちの表情の下に、違う感情や記憶を透かして見ることができるのだ。
劇中、唐突に「私はこうでこうでこうだったのよー」と過去の出来事やずっと言わずに秘めていた別の顔を長台詞で説明することがドラマにはよくあるが、
そうではなく、合間に回想シーンを別途入れておくことで、何かあった時に、Aという言動の下にBという感情やCという記憶などが重ねて見えてくる。
多層な感情や情報を同時に可視化させる、これぞ高度先端ドラマといえよう。
貴重なトライに多大なる貢献をしているのが相葉雅紀だ。
相葉は、バラエティーに出演したときのリアクションや発言が、ふいに変なふうに曲がる魔球のようで、嵐の中で最もつかみどころがない人物。
「ラストホープ」の卓巳は、真面目な会議中にお菓子を食べたり、普通は遠慮して口にしないこともズケズケ言ったりするマイペースキャラ。ふだんは能天気なくらい朗らかだが、心の中にいろいろ抱えているので、ひとりになると表情が曇る。
そんな人間の多様性を、相葉雅紀はその読めない表情の中に潜ませた。
1本の線でくっきり輪郭を描くのではない、何重もの線によって描かれた卓巳という像は、結末を巧みに(名前にかけてみました)カモフラージュしながら、ドラマの後半戦へと向かう。
卓巳が、記憶の中に現れる同い年くらいの人物(高橋一生)に会いに行くと、彼は白血病で苦しんでいる。
謎の週刊誌記者(前田亜希)は歩美を執拗に追いかけ、
雪代は、親権をめぐって元夫とトラブり、
副島は密かにあやしい行動を本格化。
亡くなった息子を生き返らせたいという古牧の研究は、ノーベル賞を受賞した山中教授によって注目された再生医療の行き着く先にありそうな話。
本当に生き返ってしまうまで描いたらすごいけど……。
脚本家の浜田は、DNAをテーマした映画「プラチナデータ」の脚本も手がけているので、本格的な先端医療の世界を描くことができるのではないだろうか。
ただ、10話まで、ひとつも問題が解決していない上に、鳴瀬センター長がなんの兆候も見せずにいきなりぶっ倒れた!
鳴瀬は復帰して、6人を集めたわけが明かされるのか?
歩美のお父さんの殺人の動機は?
高木は、生かすべきか生かさざるべきかの問いに答えを見つけるのか?
雪代は母のかたきをうてるのか?
副島の野望はゆくえは?
古牧の息子は蘇るのか?
そして、卓巳は何者なのか?
残り11話の1時間で、6人の問題をすべて解決させることができたら、脚本家は卓巳や高木のように相当エキスパートだ。
そういえば、医療ロボットを使った同時手術により短時間で難しい手術を成功させたエピソードもあった。
ドラマ作りも高度先端の道を進んでいるのです。(木俣冬)