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「昭和元禄落語心中」10話。死神ふたたび

2016年3月18日 09時50分

ライター情報:杉江松恋

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フィナーレが迫ってきた「昭和元禄落語心中」、第10話は有楽亭菊比古の一人立ちと落語家としての覚醒を描き、現代編へつながる1話だった。雲田はるこの原作では第4巻にあたる部分である。

本題に入る前にファンの方には朗報を。第2巻が来週3月26日に発売になる。収録分は第2、3話だ。ご記憶だろうか、第2話の冒頭では、子供時代の菊比古と助六が登場し、どちらが先に入門するかで門前で小競り合いを繰り広げていた。あのとき助六は子供ながらに「野ざらし」の一部を口演してみせたのだが(第9話のラストにも意外な形でこの噺が出てくる)、その声を当てたのが落語立川流、立川談春門下の二ツ目、立川こはるだった。BD/DVD発売を記念して、そのご当人の声をいただいてきたので、どうぞ。

歯切れのいい口調が魅力の立川こはるの落語は、以下の日程で聴くことができる。
「第52回 土曜お昼の★若手箱 こはる・正太郎二人会」 入場料2000円(1ドリンク付)
3月26日(土)13:30開演(所)koenji HACO
・「立川流日暮里寄席」前売1,800円 / 当日2,000円
4月6日(水)18:15開演日暮里サニーホール コンサートサロン

ちなみに今夏のこはるは、7月19日から8月4日の間、若手真打を代表する人気者・春風亭一之輔と一緒にベルギー・フィンランド・ポーランド各地を字幕公演や学生向けワークショップで訪れる欧州公演で忙殺されるとのことだ。

死神ふたたび


七代目有楽亭八雲が亡くなった。前回で恋人のみよ吉と別れ、兄弟同然の盟友・助六が破門されて去り、親代わりである師匠が今回はこの世の人ではなくなった。八雲の家令として住み込みで働いていた松井さんも家庭の事情で辞めたため、菊比古の周囲から親しい人たちは皆いなくなったのである。誰のためでもなく、おのれのために落語をやると決めた菊比古が、ついに手に入れた真の孤独だった。
1人になった菊比古が師匠没後初の高座に選んだのが「死神」である。以前にも触れたことがあるが「死神」は西洋のメルヒェンに起源があるとも言われる妖異譚で、決して心を和ませるような噺ではない。人間の生死を扱っており、落ちは皮肉なものだ。師匠を亡くした菊比古に対して観客は同情的であるだろう。にもかかわらず、心を温める人情噺ではなく、そうした凄味のあるネタを選んだのだ。そこに一本立ちを果たした菊比古の自負、矜持が見て取れる。

ライター情報

杉江松恋

1968年生まれ。小説書評と東方Projectに命を賭けるフリーライター。あちこちに連載しています。

URL:Twitter:@from41tohomania

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