柴川淳一[著述業]

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世の中には、人を騙して金儲けを企む悪人がいる。

詐欺師の事だが、民法の考え方では「詐欺は騙される方にも落ち度がある」というのがある。
民法が受験科目の資格試験である「宅地建物取引士試験」や「行政書士試験」にはよく出題される。

例えば、「脅迫」と「詐欺」によって不動産を第三者名義にされた時に被害者(元の持ち主)の権利をどう守るかというふうに出題される。この答えは「脅迫」の場合は全面的に被害者の権利が守られるが、「詐欺」の場合は「善意の第三者に対しては対抗できない」としている。

つまり「詐欺とは知らずに詐欺師や詐欺師から不動産を購入した者からさらに転売された人」の方が詐欺師に騙された人より気の毒だから守ってあげようという考え方だ。

権利がぶつかり合った時、より気の毒な方の味方をするというわけだ。詐欺師に騙されるあんたにも落ち度があるでしょうという考えだ。筆者はこの考え方には納得いかない部分があるが、それこそ専門家が幾星霜かかって築き上げた法理論だから、文句は言うまい。

ただし、詐欺師は悪党だ。絶対、罰せられるべきだ。

筆者の銀行勤務時代の話だが、若い頃、営業担当者として退職一時金を預金にお預かりしたことから贔屓になってくれたお客がいた。彼は、地方のマスコミに永年勤務した人だった。紳士で退職時には社内でも相当な地位にいた人だった。
報道機関にいながら事件現場や取材活動の経験はなく、反面、企業のオーガナイザーとして辣腕を振るった人物だと後から知った。

【参考】<1億円の土地が100万円に?>ドラマよりもドラマチックな詐欺事件に脱帽

その人が、所有する市内一等地の遊休不動産を売った。自宅は郊外にあった。不動産取引後、彼は土地売却代金を全額預金すると電話をしてきた。訪問して筆者は奇異な感じがした。

土地代現金5000万円と、3通の約束手形、内訳は2000万円2通と1000万円1通。しかも、手形の期間は6ヶ月、9ヶ月、1ヶ年だ。聞けば買い手は市内不動産屋某で「金額が1億円なので半金半手にしてください」と言われてキャッシュ5000万円、手形5000万円を持ちかえったそうだ。

「半金半手」とは、半分を現金(振込)で、残り半分を手形で支払うという支払方法のことだ。

不動産取引で半金半手なんか聞いたことがない。半年から1年の手形なんか、詐欺師が土地を転売して逃亡するのに十分だ。筆者はすぐに弁護士さんに相談して手を打ちましょうと提案した。
彼は6ヶ月様子を見ようと言った。それは甘いと筆者は思ったが彼には思惑がありそうだった。

果たして6ヶ月後、2000万円の約束手形は無事落ちた。しかし、案の定、残りの2通はやはり不渡り手形で返却された。付箋の付いた手形を筆者に示し彼は言った。

 「私はあの土地は元々、5000万円以下の値打ちしかないと思っている。前の道は二項道路(建築基準法42条第2項に規定される狭い道の事。この道に面すると建築制限が付くので土地の価値は低い)だし、他の業者に聞いても5000万円はしないと言うことだった。」

彼は、一息ついて驚くべき事を言った。

 「実は、あの不動産屋の某は私の小中学校時分からの友人だった。彼が何故今回こんな手の込んだ事をしたのか、私には分からない。彼にどんなバックが付いていて彼にどんなメリットがあるのか興味もない。ただ、私は遊休土地の固定資産税を納めるのが面倒だったし、あいつ(不動産屋某)の役に立てばそれでいい」

筆者は違和感を覚えたものの、彼に被害者意識がない事が救いだった。
しかし、不動産屋某は2回の不渡りを出し、銀行取引停止処分となる前にこの町から姿を消した。行方は知れない。不渡り理由は「資金不足」だった。

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