ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム「報道部畑中デスクの独り言」(第477回)
■リュウグウからのサンプルリターンから約5年半
七夕を前に、宇宙では大きなミッションが無事成功しました。
最接近直前のトリフネの画像( JAXA・東京大学・千葉工業大学・東京科学大学・産業技術総合研究所・パリ天文台・カナリア天体物理研究所 提供)
2020年、小惑星「リュウグウ」からの砂を地球に届ける偉業を果たした探査機「はやぶさ2」はその後も「拡張ミッション」として、様々な任務にあたっています。7月5日午後6時30分、はやぶさ2は小惑星「トリフネ」の近くを通過しながら、実態を調べる「フライバイ探査」に臨みました。
「トリフネ」は地球に近づく軌道を回る小惑星の一つで、形は細長く、大きさは500m程度とみられています。今回のフライバイ=接近の目標距離は約800m。「小惑星のギリギリを通り抜ける」「かなり攻めたミッション」と関係者は語っていました。鮮明な画像を得るためにはできるだけ近くで「接写」する必要があるわけです。
また、はやぶさ2は「ランデブー」と呼ばれる長時間の滞在による観測を目的とした探査機ではありません。一瞬かつ最大限の接近を可能にするため、ソフトウェアを新規に開発、地上のシミュレータで幾度となく検証してきたといいます。接近時の相対速度は秒速約5km。まさに「一発勝負」の挑戦でした。
この日、JAXA(宇宙航空研究開発機構)は公式YouTubeチャンネルで管制室のもようを公開。トリフネは地球から約1億kmの距離にあり、テレメトリと言われるデータの着信に時間がかかるため、関係者がモニターなど見守りながら小惑星への無事通過を知らせるデータを待ちました。
通過予定時刻から約5分後、管制室では拍手が沸き起こりました。そして中継動画で「はやぶさ2はトリフネフライバイを実施し、探査機の状態が正常であることを7月5日18時35分に地上で確認しました」と明言。
通過予定時刻まで約3分 トリフネからの距離が1000kmを切るデータが示された(JAXA公式YouTubeから)
■トリフネ、衝撃の画像。岩もくびれもくっきりと……
はたしてその成果は? 翌6日午後、JAXAでは記者会見が行われ、フライバイの探査の成功を正式に発表。表面の「ボルダー」と呼ばれる岩が鮮明に映る画像も公開されました。
「これを見た瞬間、衝撃的だった。鳥肌ものだ。こんないい写真が撮れるのか。感動しかなかった」
三枡チーム長は高揚した様子で語ります。同席したチームメンバーのJAXAの吉川真准教授も「ある意味画期的」と話し、疾走する馬から的を射抜く流鏑馬とたとえました。
細長い形とはわかっていながら詳細が不明だったトリフネの姿は、中央部分にくびれのある落花生のような形状であることも判明。吉川准教授は2つの小惑星がくっついたものと推論します。「雪だるま」(三枡チーム長)、「お団子をくっつけたような形」(吉川准教授)と形容していました。
無事通信が確立され、喜びに沸く管制室(JAXA公式YouTubeから)
あくまでも「速報」ということで、トリフネの実際の大きさや、表面温度、物質の成分などの詳細は今後の解析に委ねられます。また、はやぶさ2とトリフネが最接近した距離については、接近時にはやぶさ2の姿勢が不安定になったため、直接の測定ができず、周辺のデータから今後推測していくということです。カメラを含めた3つの機器によるデータはすべて取得。全データが揃うのは今年末になる見込みです。なお、実際の相対速度は秒速約5.3kmであることが明らかにされました。
「“宇宙一”のミッションだった。宇宙一のチーム、宇宙一の探査機と思っている」
今回の探査の採点を問われ、三枡チーム長は具体的な数字は避けた上で、どこかで聞いたような、しかし誰もがイメージできる表現で偉業を称えました。会見に同席したJAXA宇宙科学研究所の藤本正樹所長は「リスクは取っていく。安全を十分確保した上で行ってみるとおもしろいことがある。その絶妙のバランスがたまらない」と宇宙探査の醍醐味を語っています。
リュウグウ着陸の時には運用メンバーからチキンカツやとんかつを食べてゲンを担いだといいます。さて今回は? 会見でたずねたところ、三枡チーム長は余裕がなかったとしながら、「いろんな関係者が差し入れを持ってきてくれて、ピザやケーキなど、いろんなものを美味しくいただいて成功につながった」と話しました。
青いダルマを手に三枡運用チーム長(JAXA公式YouTubeから)
■地球防衛の時代を見据え……、日本の小惑星探査の使命
今回のフライバイ探査の大きな目的としてプラネタリーディフェンス(地球防衛)に対するデータ取得があります。実は地球の周囲には多くの小惑星があり、将来、地球に衝突する可能性はゼロではありません。衝突を避けるためには、探査機が接近して小惑星の素性を調査したり、場合によっては小惑星に探査機をぶつけて軌道を変え、衝突を避けるということも必要になっています。
実際に3年後の2029年4月13日金曜日(日付まで特定されているのがスゴイ!)には「アポフィス」と呼ばれる小惑星が地球の約3万2000kmまで接近すると言われています。これは地球からの距離が静止衛星のそれとほぼ同じで、肉眼でも確認できると言われています。藤本所長は「小惑星探査で世界的に知られている我々として、関与しないわけにはいかない」と話します。今回はそうした事態に備えた緻密な軌道制御という意味合いもありました。
その軌道制御について、三枡チーム長はフライバイ前の会見で「沖縄から北海道にある1円玉をレールガン(電磁砲)で射抜くぐらいの難しさ」と話していました。思えば、はやぶさ2が「リュウグウ」に着陸する際には「飛行機の飛ぶ高さの2倍ぐらいの所から、甲子園球場の“マウンド”に降りるようなもの」、リュウグウからの砂の入ったカプセルが地球で狙った領域に着地する際には「1km先にあるナナホシテントウの中心のホシを的にする」と津田雄一プロジェクトマネージャ(当時)が話していました。様々な表現がなされていますが、宇宙での機体制御がいかに緻密で厳しいものであるかがうかがえます。
成功翌日の記者会見 笑顔がこぼれる(右:三枡チーム長 左:吉川准教授 JAXA公式YouTubeから)
■動ける限り……、はやぶさ2の挑戦は続く
2014年の打ち上げから約11年半が経過しているはやぶさ2はもともと「リュウグウ」からの砂を地球に届ける目的だったため、設計寿命はとうに過ぎています。イオンエンジン4基のうち、現在動くのは1基。アンテナ、ヒーター制御装置に劣化がみられ、地上からできる限りの補正をしながら運用している状況です。カメラの一部にはリュウグウへの着地の際にチリがレンズに付着している可能性があります。一方で太陽電池パネルに大きな劣化は見られず、必要十分な電力が供給されているということです。
はやぶさ2はフライバイ成功もつかの間、7月9日には次のターゲットに向けた運用が始まります。プラネタリーディフェンスに関する国際ルールの策定はまだまだこれから。そんな人間の営みをよそに飄々と、粛々とミッションをこなしているように見えます。
2027年12月、2028年6月に地球の重力を利用するスイングバイを経て、2031年には「1998KY26」と呼ばれるさらに別の小惑星への到着を目指します。まだまだ5年間の“長旅”が控えています。
(了)

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