◆主人公の強烈な内省的意識
先週行われた芥川賞の選考は残念な結果に終った。「該当作ナシ」。
高校の頃はさしてパッとしたところのなかった主人公・熊田由理は地元の短大に進み、垢(あか)抜けた感じになっている。
ある正月。帰省中の、高校時代にお金を借りたという向伊が電話をかけてくる。向伊は東京の大学に通っている。ほとんど記憶にない男からの電話にうろたえるけれど、正月にしかかかってこない電話に過剰な思いを抱いていく主人公。二人は付き合うことになるのだが……。ここまでのトーンが後半になるや激変する。向伊という男がまったく信頼に足らぬ人間だということが判明し、地獄へまっさかさま……。
本谷さんの小説を特徴づけているのは、主人公の強烈な内省的意識である。基本的に一人称が用いられている本作でもそれは変わらない。
相手を嫌悪し、憎み、同時に愛し、いとおしむ。
【書き手】
陣野 俊史
1961年長崎生まれ。文芸評論家、フランス文学者。ロック、ラップなどの音楽・文化論、現代日本文学をめぐる批評活動を行う。最新作に『戦争へ、文学へ 「その後」の戦争小説論』(集英社)。その他の著書に『フランス暴動 - 移民法とラップ・フランセ』『じゃがたら』(共に河出書房新社)、『フットボール・エクスプロージョン』(白水社)、『フットボール都市論』(青土社)など。
【初出メディア】
日本経済新聞 2011年7月20日
【書誌情報】
ぬるい毒著者:本谷 有希子
出版社:新潮社
装丁:文庫(159ページ)
発売日:2014-02-28
ISBN-10:4101371733
ISBN-13:978-4101371733