かつて大学受験では珍しくなかった「浪人」。しかし今では年々減少しています。


その背景には少子化だけでなく、大学入試制度や受験生・保護者の意識、経済状況など、受験を取り巻く環境の変化がありました。

教育ジャーナリスト・小林哲夫さんは著書『予備校盛衰史』(NHK出版新書)の中で、その理由を10の視点から分析しています。同書より一部抜粋・編集して、「浪人」が減少した背景を紹介します。

■浪人減少の背景には少子化と現役志向
なぜ浪人は減少したのか。

大学進学率は1994年に30%、2002年に40%を超えて、2009年には50%となり、2025年には59%まで上がった。大学志願者は増えた以上、浪人が減る要素はないように見えるが、そんなことはまったくなかった。

大前提として少子化が進行し、大学数、入試制度、大学の取り組み、受験生の意識、経済状況が大きく変わったからだ。

■18歳人口の減少と「現役志向」の広がり
浪人の減少について、その要因を次のようにまとめることができるだろう。

▼1. 18歳人口が減少した18歳人口、大学数、大学進学率の推移をまとめた(図表1-5)。
大学進学率は過去最高なのになぜ? 浪人が減り続ける「少子化だけでは説明できない10の理由」
※画像出典:『予備校盛衰史』(小林哲夫・著/NHK出版新書)

2024年生まれが高校3年生=受験生となるのが2042年である。このときの18歳人口は推定で約69万人となる。

2024年、全国の大学の募集定員は62万5188人、入学者数は61万3453人だった。
2042年の18歳人口推定約69万人を2024年の入学者数にあてはめると、大学進学率88.9%になってしまう。大学進学率がここまで高まることはおよそ想定できない。

そこで、2042年の18歳人口約69万人を現在の大学進学率59%の水準で考えてみると、2042年の大学入学者数は40万7100人になり、2024年に比べて20人も減ってしまう。

それに合わせて受験生数そして浪人生はどんどん減っていくだろう。もちろん、大学は少なくなっていく。

▼2. 現役・安全志向が高まった高校生、保護者の間で「大学は現役で入るべき」という考え方が広がった。2000年代ごろまでは、自分の学力から背伸びして受験する、「ダメ元」的な「記念受験」の層があった。いま、現役生は自分の学力に合わせて合格可能性が高い大学に絞って受験するようになった。

▼3. 経済的な理由で、浪人はできない受験生が増えた大学進学率が59%となった今日、さまざまな階層が大学を目指すようになった。経済的に余裕のない家庭では、「第1志望に不合格ならば浪人」とは考えられず、第2、第3志望の大学に進むようになった。

▼4. 浪人は人生設計でデメリットという考え方が広がった浪人すればその分、働く時間が短くなり生涯賃金で損をしてしまう、就職活動では年齢を重ねていることが不利になる、などの話が受験生、保護者のあいだで語られるようになり、「浪人=デメリット感」が広がった。なお、就職活動で不利になっているという話は実際には聞かない。


▼5. 大学が増えて進学先の選択肢が増えた過去20年、大学数と定員数の推移をまとめた(図表1-6)。旺文社の推定によれば、2024年の受験生数は64万7000人。定員数は63万6000人なので、その差はわずか1万1000人となった。18歳人口が減少し続けており、現役が大学に進学しやすい環境になっている。
大学進学率は過去最高なのになぜ? 浪人が減り続ける「少子化だけでは説明できない10の理由」
※画像出典:『予備校盛衰史』(小林哲夫・著/NHK出版新書)

▼6. 全国にさまざまな学部、学科が生まれたかつて地方の受験生は地元の大学に自分の志望する学部学科がなく、関東や関西などの都市部の大学に進まざるを得なかった。難易度が高い場合、進学をあきらめるか、浪人するしかなかった。だが、昨今、地元にも自分が志望する学部学科が増え、現役で進学するハードルが下がった。

たとえば、医療、福祉分野で大学、学部学科が多く設置されている(以下、カッコ内は開学年)。山形県立保健医療大(1997年)は理学療法士を育成する。高知学園大(2020年)は管理栄養士を育てる。新潟医療福祉大(2001年)では社会福祉士、精神保健福祉士をめざすことができる。大分県立看護科学大(1998年)と宮崎県立看護大(1997年)は看護師を養成する。


▼7. 女子の進学率が高くなった過去30年、女子の大学進学率は1995年22.9%、2000年31.5%、2006年38.5%、2012年45.8%、2018年50.1%、2022年53.4%と推移している(文科省データをもとに武庫川女子大学教育総合研究所が集計)。

これまで短期大学や専門学校に進んでいた女子が四年制大学を目指すようになった。女子は現役志向が強く、女子が大学へ進むことになって、受験生および進学者全体の現役比率が高くなった。

▼8. 中高一貫校で進学指導が強化された中高一貫校で現役合格に向けた指導に力を入れている。浪人させない指導をセールスポイントとする学校もある。

『サンデー毎日』は毎年春に東京大など難関大学の合格者出身高校ランキングを掲載している。このときに教育機関の広告が掲載されるが、1970年代、80年代は予備校の浪人コースの紹介が圧倒的に多かった。

2000年代以降になると中高一貫校の現役合格実績をアピールするものが顔を出すようになった。2020年代、共学化で校名変更してリニューアルした中高一貫校が、進学実績を競う広告を出している。

▼9. 受験生にブランド大学へのこだわりが少なくなった「東京大しか考えられない」「なにがなんでも早稲田」「絶対に慶應」という、特定大学への執着が薄れ、「何年かかっても」「浪人して」という思いを抱く受験生が少なくなった。いまの自分が入れる大学に進んでもいい、と考える受験生が増えている。

▼10. 学校推薦型選抜、総合型選抜が広がった多くの大学で、一般選抜よりも学校推薦型選抜・総合型選抜を重視するようになり、これらの枠が広がった(図表1-7)。
年内に大学入学を決める高校生が増えている。

大学進学率は過去最高なのになぜ? 浪人が減り続ける「少子化だけでは説明できない10の理由」
※画像出典:『予備校盛衰史』(小林哲夫・著/NHK出版新書)
もっとも、いずれの選抜方法も浪人が受験できる大学はあるが、メインは現役生である。大学入試全体で浪人が受けられる枠が減ったともいえる。
この書籍の執筆者:小林哲夫 プロフィール
教育ジャーナリスト。1960年神奈川県生まれ。94年の創刊から『大学ランキング』編集担当。著書に『予備校盛衰史』、『「旧制第一中学」の面目』(ともにNHK出版新書)、『関関同立』(ちくま新書)、『改訂版 東大合格高校盛衰史』『京大合格高校盛衰史』(ともに光文社新書)、『中学・高校・大学 最新学校マップ』(河出書房新社)、『高校紛争 1969─1970』(中公新書)など。
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