特に隣県である岐阜県の地名「高山」が入ったことから、「県民をばかにしている」といった批判が相次いでいるのだ。
■前代未聞の愛称変更と「県民無視」のツケ
これまでの愛称「きときと」は2012年11月から使われてきた。富山弁で魚や野菜が「新鮮」という意味だが、これも当初は「意味不明」という声が多かった。
その後、徐々に浸透してきたものの、2026年4月の空港民営化を機に、運営元の富山エアポートが「もっとインバウンド向けの愛称を」と名称変更の方針を打ち出していた。
検討の過程では、隣県ながら他の空港よりアクセスしやすい「高山」も候補に挙がっていた。旅行先としての人気は高いものの、「隣県の地名を空港の愛称に使うのはいかがなものか」という指摘はネット上で少なくなかった。
そうした声を押し切るように、富山県の新田八朗知事が発表したのが「富山高山すし空港」だった。寿司は富山を代表する名物ではある。また、他県の地名が愛称に使われるのは今回が初めてではなく、実は島根県益田市の「萩・石見空港」に次いで2例目となる。
■高山への交通課題、隣県・能登空港との明暗
富山空港から岐阜県高山市までは約60km程度。移動にかかる時間は車で2時間弱、鉄道を利用すると3時間以上かかる。コロナ禍以前は空港と高山市を結ぶ直行バスがあったが、現在は運休中。
折しもこの前日、石川県の能登空港が世界初の「ポケモン」を冠した「のと里山ポケモン・ウィズ・ユー空港」として開港した。出発ロビーには飛行機に乗ったピカチュウの巨大バルーンが浮かび、内外装にもポケモンが描かれていて、ショップには早速長い列ができるなど大きな話題を集めた。隣り合う県同士の同じタイミングでの愛称変更は、あまりに対照的な反応となった。
■愛称めぐり賛否両論、県民の反対で断念した空港も
▼【山形空港・庄内空港】と「おいしい」例えば「おいしい」がつく山形空港と庄内空港。「おいしい」には地元料理の味だけでなく、「好ましい」「見事」という意味もあることから「山形にある全てが魅力的」という思いが込められている。
実際に山形を旅すれば、食事も景色もよく、温泉など満足度は高い。しかし、その魅力を「おいしい」の1語だけで表現すると「分かりづらい」という声もあり、丁寧な説明がなければ伝わりにくいのも事実だ。
▼【宮崎空港】と「ブーゲンビリア」宮崎空港の「ブーゲンビリア」も、当時は「他に魅力がたくさんあるのに、なぜ」という声が少なくなかった。
宮崎県の資料によると、宮崎空港ビルの初代社長で「宮崎観光の父」と呼ばれた岩切章太郎氏が、南国ムードを象徴する花としてブーゲンビリアの普及に尽力してきた歴史が愛称の由来だという。
開港60周年を機に一般公募で選ばれたものだが、夜になるとピンク色に光るネオンは「レジャーホテルみたい」と、今も別の意味で名物になっている。
▼【茨城空港】と「Tokyo」(廃案)一方、地元の反対で愛称変更が断念された例もある。茨城空港では2020年、海外向けの愛称として「Ibaraki International Airport」に「Tokyo」を冠する案が出た。しかし、県のパブリックコメントや電話、ネット上での批判が多数を占め、「東京に空港があると誤解を招く」といった県民の反対意見を受けて見送られた。
▼【鳥取空港・米子空港】とアニメキャラ鳥取・米子の両空港に「コナン」「鬼太郎」というキャラクター名がついたのも画期的だった。日本のマンガ・アニメは老若男女問わず人気が高く、両空港へわざわざ足を運ぶ国内外のファンも少なくない。
■海外にはJFK、ショパン、トランプ空港も
海外の空港名を見てみると、先に触れた「高知龍馬空港」と同じく人物名を冠する空港は多い。米ニューヨークのジョン・F・ケネディ空港、イタリア・ローマのレオナルド・ダ・ヴィンチ空港、ポーランド・ワルシャワのフレデリック・ショパン空港が代表的だ。
2026年7月9日には、フロリダ州の空港名がドナルド・J・トランプ大統領国際空港に変更され、これもまた賛否を呼んでいる。
■富山空港が愛称変更を決断した厳しい現実
そもそも空港の愛称は、空港の利用促進を目的にしているため、利用客の多い羽田・成田や福岡といった都市空港には愛称がなく、主に地方空港につけられる。
今回、富山空港がわざわざ愛称を変更した背景には「空港利用者減少」という厳しい現実がある。
富山県の資料によると、2025年度の利用者は約38万人で、2012年度の約95万人と比較して6割ほど減っている。特に2015年3月の北陸新幹線開業の影響が大きく、現在の国内線は東京(羽田)便が1日3便、札幌(新千歳)便が1日1便のみ。全便運休中の国際線は、2026年8月20日から台北便が再開する予定だ。
こうした危機感に由来する愛称変更だとしても、地元の声をくみ取らずに一方的に変更すれば批判は避けられない。隣県の地名を冠するとなれば、なおさらだろう。
そもそも、愛称変更で利用者が急増し、地域経済が活性化するとは限らない。新愛称の決定をスタートに観光施策を伴わせ、地域密着型の空港として地域振興につなげることこそが本来の課題である。
この記事の執筆者: シカマ アキ
大阪市出身。関西学院大学社会学部卒業後、読売新聞の記者として約7年、さまざまな取材活動に携わる。その後、国内外で雑誌やWebなど向けに、取材、執筆、撮影など。
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