雪印メグミルク株式会社 (本社:東京都港区 代表取締役社長:佐藤 雅俊)と国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科の野間 健太郎 准教授らの研究グループは、Caenorhabditis elegans*1 (以下、線虫)を用いて、雪印メグミルクが保有する乳酸菌Lactobacillus paragasseri SBT2055(以下、SBT2055)が、加齢による学習能力(連合学習能*2)の低下を抑制すること、さらにその作用メカニズムの一端を明らかにしました。
本研究は、SBT2055が加齢に伴う神経機能の異常な活動を抑制する効果があることを示唆しており、将来的にはヒトの記憶力や学習能力の維持に寄与することが期待されます。

本研究成果は、2026年6月10日付の学術雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。


本研究のポイント

・SBT2055が、加齢線虫の連合学習能の低下を抑制することを発見した。
・SBT2055による連合学習能の低下抑制効果には、線虫の寿命調節やストレス応答に関わるたんぱく質の「DAF-16」が必要であることが示唆された。
・SBT2055の摂取により、線虫の加齢による感覚神経細胞(AWCニューロン)*3の過剰な活性化が抑制され、正常な神経活動が維持されることを明らかにした。


研究背景と内容

近年、加齢による記憶力や学習能力の低下は社会的な課題として認識されています。食事を含む生活習慣の改善で記憶力や学習能力の低下を予防できれば、高齢社会の多様な課題解決の一助になると期待されます。しかし、ヒトで、加齢による記憶力や学習能力の低下に対する食事の影響を調べることは困難です。そこで、寿命が短く、神経機能に基づいた様々な行動を示す線虫に着目しました。
線虫は、餌と、温度やにおいなどの刺激を合わせて記憶する「連合学習能*2」を持っています。この能力により、線虫は、餌のあった温度を記憶し、餌のない環境でも記憶した温度領域に移動する「温度走性行動」を示します。しかし、この温度走性行動は、若齢線虫(成虫1日齢)と比べ、通常の餌である大腸菌を摂取した加齢線虫(成虫5日齢)で減弱します。温度走性行動の減弱は、感覚神経細胞の一つであるAWCニューロンが過剰に活性化して起こること(Aleogho et al., PNAS, 2025)、また、加齢中の餌を変化させることによって、温度走性行動の減弱の程度が変化すること(Higurashi et al., eLife, 2023)が明らかになっています。

しかし、大腸菌とともに摂取して温度走性行動の減弱を抑制することができる乳酸菌は見つかっていませんでした。
そこで本研究では、乳酸菌とビフィズス菌の計51株を対象に、各菌株を大腸菌と混合して線虫に投与し続け、加齢に伴う連合学習能の低下を抑える効果を調べました。
その結果、Lactobacillus paragasseriを含むいくつかの菌が加齢線虫の連合学習能の低下を抑制しました。中でもSBT2055は、線虫の正常な成長や寿命に影響を与えることなく、連合学習能の低下を抑制しました。この連合学習能の低下抑制には、寿命やストレス応答を制御し、ヒトがもつFOXOと呼ばれるたんぱく質群と似た働きをする「DAF-16」が必要でした。さらに、線虫の神経細胞の活動状態を測定した結果、SBT2055の摂取により、加齢による感覚神経細胞(AWCニューロン)の過剰な活性化が抑制されることが分かりました。以上の結果は、SBT2055がヒトにおいてもFOXOに関わる機構や異常な神経活動に作用し、記憶力や学習能力の維持に効果を発揮する可能性を示唆しています。


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図1 SBT2055による加齢線虫の連合学習能の低下抑制効果


図中、「E. coli(Day1)」は大腸菌(Escherichia coli)を単独摂取した若齢線虫群、「E. coli」は大腸菌を単独摂取した加齢線虫群、「L. paragasseri SBT2055」は
大腸菌とSBT2055を混合摂食した加齢線虫群を示す。
(Mann-Whitney U test、*:p

■論文概要(掲載誌Scientific Reports)
論文題名:Lactobacillus paragasseriは線虫における加齢依存的な温度走性減弱を改善する
(英語原題:Lactobacillus paragasseri ameliorates age-dependent thermotaxis decline in Caenorhabditis elegans)
DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-026-48002-7


用語説明

*1 Caenorhabditis elegans(線虫):
非寄生性の線形動物で生物学の研究に広く用いられている。孵化から3日で成虫になり、300個ほど産卵する。寿命が2週間程度と短く、302個の神経細胞で様々な行動を示す。さらに体長が1mm程度であり、多個体を用いた寿命や行動の解析が容易である。


*2 連合学習能:
二種類の刺激を結び付けて学習する能力。線虫はある温度、たとえば23℃で餌とともに飼育した後に、餌のない温度勾配上に置くと、過去の飼育温度(23℃)に向かう「温度走性」と呼ばれる行動を示す。逆に23℃で餌がない状態で飼育すると23℃には移動しないことから、線虫は餌の有無と飼育温度を結び付けて学習していると考えられる。この温度走性行動を、連合学習能の指標として用いた。
*3 感覚神経細胞(AWCニューロン)
線虫が持つ、においを感知する神経細胞の一種。左右に1対存在し、周囲のにおいの情報を受け取る働きを担う。

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