設立からわずか1年あまり、しかも直前の決算では事業にかけた費用が21万円しかなかった生まれたてのNPOに、国は1億4963万円もの公金を交付した――。
自民党のZ世代を象徴する若手議員として知られる大空幸星(おおぞら・こうき)氏が立ち上げ、自殺予防のチャット相談を担うNPO法人「あなたのいばしょ」。
本稿は、東京都の「NPO法人ポータルサイト」に公開された決算書(事業報告書・活動計算書・貸借対照表・財産目録・注記)、法人の登記簿、日本政策金融公庫の公開ページといった公開資料のみをもとに、この巨額の公金の流れをたどったものである。あらかじめ断っておくが、ここで違法行為があったと断じるつもりはない。公開された数字から読み取れる事実と、そこになお残る疑問点を、ひとつずつ並べていく。
■ 21万円のNPOに、「1億4963万円補助金」の怪、謎の黒塗り
「あなたのいばしょ」の設立登記は2020年12月21日。最初の会計年度(第1期)は、2020年12月14日から2021年3月31日までの、わずか3カ月半の変則決算である。
この第1期の決算を見ると、団体の規模はごく小さい。事業にかかった費用(事業費)の合計は21万8566円。収入も、受け取った寄附金198万8000円が中心で、国や自治体からの補助金・助成金はゼロだった。設立直後の短い期間とはいえ、文字どおり生まれたばかりの小さなNPOである。
ところが、翌・第2期(2021年4月~2022年3月)の決算書を開くと、景色は一変する。「受取国庫補助金 1億4963万897円」。
この大型交付金は、報道によれば厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症セーフティネット強化交付金」にあたる(交付決定ベースでは約1億6000万円。そこから一部を返金か)。
コロナ禍で深刻化した孤独・孤立や自殺の問題に対応するための国の資金であり、あなたのいばしょの相談活動が社会的に意義あるものとして広く評価されてきたこと自体は確かである。
それでも、なお引っかかる。前年度の事業実績が21万円規模だった、設立から1年あまりの団体が、桁が4つも違う公金を扱うことになった。
歩みの速さは、補助金の額だけではない。日本政策金融公庫の公開ページには、あなたのいばしょが自ら掲げる「成果」として、次のような項目が並んでいる。
【成果】
①自殺・孤独対策に関する普及啓蒙事業
・2020年12月:加藤内閣官房長官へ提言書を提出
・2021年1月:自民党孤独対策勉強会第1回会合にて代表大空が講師を務める
・2021年2月:当団体提言をもとに、孤独・孤立対策担当大臣が設置される
・2020年度:国内外メディア露出数183 件
②チャット相談事業について
・2020年3月の窓口開設から:「厚生労働省支援情報検索サイト」に採択
・2021年3月:厚生労働省の「令和3年度自殺防止対策補助事業」に採択
・2020年度:相談人数:48,541 人
設立から1年に満たない団体が、官房長官への提言、与党の勉強会での講師、担当大臣の新設への寄与までを実績として挙げている。
なお、同じ「2020年12月:加藤内閣官房長官へ提言書を提出」という記載でも、公庫ページでは官房長官の実名が記されている一方、別途提供された事業報告書の一部では当該名が伏せられている。どちらの処理がいつ誰の手によるものか、何の意図があるのか、公開資料からは判然としないが、資料間に表記の差異があることは記しておく。
事業報告書には「積極的な政策提言と情報発信により2021年 2月 の孤独・孤立対策担当大臣設置に貢献」とあるが、どうして設立して1年未満のNPO法人にこんな大きな実績を作ることができたのだろう。
大空氏は慶應義塾大学総合政策学部の出身。在学中は警察官僚出身の小笠原和美教授のゼミで孤独問題対策を研究し、2020年に「望まない孤独のない社会の実現」を掲げて「あなたのいばしょ」を立ち上げた。学生起業から1年足らずで政策の中枢に接点を持った経緯は、それ自体が異例である。
週刊文春が2024年に、大空氏本人への取材を含む記事を掲載し、巨額の補助金、安倍昭恵氏との親交を報じている。
文春の取材内容については否定していたが、メディア出演や政府への提言も含めると、「バックに誰かいるのでは?」という疑問を持たれても不思議ではない。
■交付金の6割、9018万円の「業務委託費」は費用か
巨額交付金の使い道のうち、最も大きいのが「システム」関連とみられる支出である。
第2期の活動計算書を見ると、事業費のなかで突出して大きい項目がある。「業務委託費 9018万4189円」だ。交付金1億4963万円の、実に6割がこの一項目に充てられている。相談チャットのシステム開発費が、この業務委託費の中心を占めるとされる。
業務委託費はシステム開発に限らない外注費用を含み得る科目であり、その全額がシステム開発費であると公開決算書から特定できるわけではない。確実に言えるのは、「交付金の約6割が業務委託費という一項目に集中している」という事実までである。
長期にわたって(1年以上)自己利用するソフトウェアは、本来は無形固定資産として計上し、複数年で費用配分(減価償却)していくのが一般的だ。自前のチャットシステムも、長く使うことを前提に開発されたはずである。これを単年度の業務委託費として一括で費用処理することには、議論の余地がある。
もっとも、これを「誤り」と断じることはできない。あなたのいばしょは、決算書の「注記」のなかで、自らの会計方針をこう開示している。
《ソフトウェアは原則として定額法によっています。ただし、国からの助成金により開発したソフトウェアで、かつ非営利事業以外に使用されないものについては、全額を業務委託費として計上しております》
NPO法人会計基準では、将来の独立した経済的便益が見込みにくいソフトウェアは、資産計上せず費用処理することも認められている。補助金で開発し、外部に転用しない自殺予防チャットを「資産」とみなしにくいと判断すれば、費用処理は一つの合理的な選択肢ではある。
それでも、約9000万円という支出の規模そのものは、数字として押さえておいてよいだろう。業務委託費の計上は翌・第3期(2022年4月~2023年3月)にも続く。この年も同法人は補助金1億3692万5843円を受け取り、そのうち3072万1664円を業務委託費に充てている。
前提として、これほどの費用を独自システムの開発に投じる必要があったのか、という疑問がある。
■雑役務費、謝礼金、そして数千万円の給料手当…
決算書を読み込んでいて、もう一つ目を引くのが「雑役務費」と「謝礼金」である。
雑役務費とは、主に補助金や助成金の申請・報告において、「事業の実施に付随して発生する、臨時的かつ直接的な人的サービス(労働)や手間に対する費用」を指す勘定科目や経費区分だそうだ。
雑役務費の具体的な内容・例は以下の通りになる。
・ 臨時雇いのアルバイト代・派遣料:事業期間中に一時的に雇った人材
・専門家への依頼:事業に関連する調査やデータ分析などの軽微な委託
・会場設営・撤去費:イベントや展示会に伴う清掃や設営の手間代
・情報収集・データ入力:事務作業の補助
・機器のメンテナンス・運搬費:付随業務にかかる費用
・広報活動に係る費用:チラシの配布作業など
その雑役務費が、第2期は1746万4404円、第3期は570万1250円計上されている。あわせて「謝礼金」も、第2期に456万3270円、第3期に192万3169円が計上されている。成果に「外部から専門家を招聘し、通年で分析を実施」とあるが、専門家への謝礼金なのだろうか。
事業報告書によれば、この時期に相談員・スタッフ向けの研修を計38回実施し、国立研究開発法人・科学技術振興機構(JST)と共同で3000人規模の「コロナ下での人々の孤独に関する調査」も行っている。謝礼金や委託費の一部はこうした研修・調査に充てられた可能性があるが、その内訳は公開資料からは確認できない。
人件費にも触れておこう。
「あなたのいばしょ」の利用者は年々急増しており、相談人数は2020年度の4万8541人から、2021年度は25万4142人へと5倍を超え、2022年度は延べ31万5556人にのぼった。だが、その相談を実際に担うのが無償のボランティアであるなら、利用者がいくら増えても、有給の人件費がそれに比例して膨らむわけではないはずだ。
ところが決算書を見ると、人件費の「給料手当」は第2期に3176万7000円、第3期に6316万7322円と、1年で倍近くに増えている。これは相談員ではなく、運営・管理にあたる有給スタッフらの給与とみられる。だが、その数千万円が具体的にどんな職種の誰に支払われたのか、人数や内訳までは、公開された決算書からはたどれない。
「ボランティアが支える」という看板と、年々ふくらむ有給人件費。このギャップの実像に迫るには、行政への情報開示請求も必要になってくるだろう。
■代表辞任後も残る問い
大空氏は2024年9月27日、あなたのいばしょの理事を辞任した(登記は同年10月)。その直後の衆議院議員総選挙では、自民党公認・公明党推薦で東京15区から出馬。小選挙区で復活当選を果たした。当時25歳、今回の衆院選の候補者のなかで最年少だった。いまはZ世代を代表する代議士として活躍中だ。
NPO法人をめぐっては、公金や寄付の使い道に向けられる視線が年々厳しさを増している。社会起業家・駒崎弘樹氏が長年顔役を務めた認定NPO法人フローレンスも、日本財団の助成金をめぐって厳重注意を受け、今年4月に約1284万円を自主返納した。実績も知名度もある団体であっても、公金の使途は容赦なく問われる時代である。
その目で改めて「あなたのいばしょ」の決算書を開けば、引っかかりは小さくない。ほとんど事業実績のない段階で、異例の早さで下りた巨額交付金。その6割を占めながら、単年度の費用として一括計上されたシステム開発費。そして内訳の見えない雑役務費や謝礼金。これらにまつわる疑問は、大空氏が代表を退いたいまもなお解消されていない。
NPO法人の活動資金には、多額の税金や人々の善意の寄付が含まれている。孤独や自殺の危機にある人を救うという、その活動の意義が大きいからこそ、公金の使い道はもっとオープンになってほしい。
取材・文:篁五郎
![LDK (エル・ディー・ケー) 2024年10月号 [雑誌]](https://m.media-amazon.com/images/I/61-wQA+eveL._SL500_.jpg)
![Casa BRUTUS(カーサ ブルータス) 2024年 10月号[日本のBESTデザインホテル100]](https://m.media-amazon.com/images/I/31FtYkIUPEL._SL500_.jpg)
![LDK (エル・ディー・ケー) 2024年9月号 [雑誌]](https://m.media-amazon.com/images/I/51W6QgeZ2hL._SL500_.jpg)




![シービージャパン(CB JAPAN) ステンレスマグ [真空断熱 2層構造 460ml] + インナーカップ [食洗機対応 380ml] セット モカ ゴーマグカップセットM コンビニ コーヒーカップ CAFE GOMUG](https://m.media-amazon.com/images/I/31sVcj+-HCL._SL500_.jpg)



