今年二月からはじまった《怪奇の本棚》の最新刊で、日本オリジナル編集のウェイクフィールド傑作選。全十四篇が収録されている。

 H・R・ウェイクフィールドは1888年生まれのイギリス作家。第一次大戦後に編集者として勤めながら創作活動を開始し、さまざまなジャンルの小説を手がけたが、もっとも有名なのは怪奇小説である。1964年に没する三年前の61年には、かのアーカム・ハウスから短篇集を上梓している。しばしば「ゴースト・ストーリー黄金期最後の作家」と称されるウェイクフィールドだが、本書巻末の「訳者解説」によれば、「伝統を受け継ぐだけではなく、当時の社交界で流行していた最先端のいいまわしをとり入れたり、推理小説的な要素をとりこんだり、常に新機軸を試してゴースト・ストーリーの可能性を探っていた」という。

 たとえば、本書収録作品のうち、「約束の業火」はギャング小説のようにはじまる。長い刑期を終えたばかりのバートンが、昔の仲間で、いまは実業家として成功をしているマークスを訪ね、預けたかたちになっていた金を受けとろうとする。しかし、強欲なマークスは手下を使って、バートンを始末してしまう。このあたりは、アメリカのパルプマガジンに載っていそうなテンポである。そのテンポのまま、怪奇がはじまる。凄惨な殺されかたをしたバートンの復讐だ。マークス一味は四人。ボスのマークス、実行役のチンピラのクローカーと、その相棒のシン=マン、そしてマークスの執事のビルカーである。

 怨念による超自然的な復讐が次々になされていく。怪奇小説のひとつの王道だが、この作品には独特なキャラクターの味わいが添えられている。先に名前をあげた四人のうち、最後のひとり、ビルカーが、悪党に仕えるにはそぐわない、模範的な執事ともいうべき人物なのだ。このビルガーと粗野なマークスとのやりとりなど、読んでいて思わず笑ってしまう。陰惨な怪奇と絶妙のユーモアが同居している、取りあわせの妙だ。

「護衛」も、犯罪小説的な展開の作品。主人公のオーウェンは身を持ち崩していたところを、有名な服飾家のマダムに救われ、彼女の店の夜警として働いている。勤務態度は真面目だが、酒やギャンブルの悪癖は直らず、借金まみれの生活。そこにつけこんだ悪党が、キナ臭い儲け話を持ちかけてきた。金の誘惑に負けたオーウェンはそれに乗ってしまい、結果、マダムが負傷するはめになる。罪悪感に駆られるオーウェン。

 事件のいきさつのあいまに、マダムの店にある異様なマネキン人形たちの逸話が挿入される。

それらはマダムの元恋人の芸術家が創ったもので、一目見て魅了される者もあるが、多くの人間は嫌悪感を覚えるのだ。元恋人は悪魔を崇拝していたとも伝えられる。オーウェンの募る罪悪感に、不吉な雰囲気が拍車をかける。だめ押しは、マダムが傷つくことになった犯罪を捜査するマーロン警視が、昔読んだ小説の話をするくだりだ。その小説では、人形が動きだして、罪を犯した男を殺す。警視はそうしたあらすじをなにげなく口にしただけだが、オーウェンを震えあがらせる。悪魔的芸術としての人形のイメージが鮮烈だ。

 表題作「幸運の木立」は、クリスマス・ストーリーでもあり、植物奇譚でもある。雇い人がクリスマス・ツリー用に引き抜いてきたモミの木は、その土地の者たちが畏怖をこめて〈幸運の木立〉と呼んでいる林にあったものだった。物語は淡々とした語り口で進むが、それがかえって、クライマックスのスペクタクルを盛りあげる。

「時空のねじれ」は、アーカム・ハウスの雑誌〈アーカム・サンプラー〉1948年夏号に発表された作品。ウェイクフィールドは第二次大戦後に、作品の市場をアメリカにも求めはじめていた。

語り手は道で走っている男を見かけ、その風采がなぜか気になってしかたがない。今度行きあたったら、なんとしても顔を確認しよう......。内容はフリオ・コルタサルが書きそうな奇想小説だが、小説のスタイルがコルタサルほど洗練されておらず、それが独自の風合い----怪奇小説らしい仕上がり----にもなっている。

 出版社を舞台にしたゴースト・ストーリー「タークス・アンド・タルボット」、同じく「最後の退去者」は、編集者だったウェイクフィールドの経験が反映されているようで興味深い。「クリケットにあらず」は、珍しいクリケット怪奇譚。

(牧眞司)

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